伝承Ⅹ
4月20日
終桜祭まで、今日を含めてあと5日。
どこのクラスを見ても準備で忙しそうで、うちのクラスも担任の授業を潰してまでもやっている。本当にそんなことやっていいのかは
委員長が俺を見つけるなりこちらへ近づいてきた。
「如月くん。ちょっとメニュー見てくれる?」
俺は委員長から手渡されたメニュー表(仮)を開いてみる。
するとそこには綺麗に達筆で書かれた品目名、和風っぽさをイメージしたイラスト、装飾が施されていた。
しかし、品目名を見てみると、お抹茶と団子セット、お抹茶とアイス最中セット、お抹茶とお抹茶(冷ため)セットなどと
最後のあのセットはなんだ、飲み物2種類とかこれ考えた奴誰だよ。
俺はすかさず声を出した。
「おーい!このメニュー考えた奴だれ??」
「あ、それ俺が考えた」
「おい夜明。この最後の奴なんだよ」
「ほかに思いつかなかったから」
「お前仮にもお茶屋の息子だろ・・・」
「まあ。お抹茶を立てることくらいならできるぜ」
確かにお茶屋の息子が教えてくれるのは物凄い心強いのだが、それに合わせてメニューも考えるように頼んだのは失敗だった。
「わかった。今日の帰りにこの間行った石坂のショッピングモールの和風カフェいくぞ」
〈私も行っていい?実際作るときに参考にしたいの〉
俺に話しかけるときたまに行うこの制服をちょこんと掴むこの仕草に俺はいつまでも慣れずにいた。
俺は少し照れた仕草をし、いいよと返事を返した。
俺は彼女の仕草を見て、逆に不安なことも思い出してしまった。
あれからというものの時間の停止が起こっていない。
あの話を聞いてから俺は一つの仮説を立てた。
あのおとぎ話のような物語が仮にも真実の話だとして、あの願いの対価というものが時間の静止なのではないかと思っていた。
だがしかしそれを立証するような証拠も根拠もない。
それほど今の俺たちには情報が少なすぎるのだ。
誰にも話せていない、こんな忙しいときに話してもいい気がしない。
そんなもどかしさが胸の中に残っていた。
無言の彼女は彼の表情を見ていた、苦しんでいるような感じがしていたその顔つきを胸に刻んでいた。
授業後に俺と夜明、白音の3人で石坂ショッピングモールに向かった。
俺たちは店内に入ると店員さんに案内された席に着くと偶然にも前回来た時と同じ席だった。
俺たちは5分近く手渡されたメニュー表を眺めていた。
「二人ともメニューは決まったか??」
〈私はこの抹茶の和風パフェにするわ。蒼人は?〉
「俺はそうだな・・・抹茶のシフォンケーキにするかな」
「二人ともそう行くのか、なら俺はぜんざいにしようかなー!すみませんー!!オーダーお願いします!」
彼は透き通る声で店員さんを呼んだ。彼はこういうのは得意だが俺は苦手な方なのでいつも任せている。
「そういえば白音ちゃんは作る当番だっけ??料理とか得意なの??」
〈作るといっても前日にある程度作り置きしておくけど
「そうなんだー。得意料理とかあるの??」
〈肉じゃがとか得意な方だわ。作るのは大変だけど〉
俺は二人の会話を傍観していた。すると夜明がタイミングを見計らって話を振ってきた。
「蒼人も料理得意だったよな?」
「あ、ああ。うちの家族で料理ができるのが俺と父さんだけだし、そんな父さんも今出張だから俺が作っているし」
〈意外だわ〉
「逆におばさんと瑠璃さんが作れないのが不思議だな」
「本当にそうだよ。母さんも
俺は愛想笑いをした。これが
「まあ、俺の家族の話はまたにして。ほら頼んだものが来たよ」
俺たちは各々が頼んだものを口に運ぶ。その美味しさは絶品であった。
以前来たときもここのデザートを頼みその時もお茶屋の息子である夜明さえもここのデザートには唸っていた。実際、夜明の両親もここのデザートを好んでいるらしい。そんなお茶屋のお墨付き(非公認)もある本格的な和風デザートを出すこの店を参考にするほかないのだ。
「やっぱりおいしいなー!このざんざいの白玉もいろんな味の種類があってバラエティーゆたかだし、なんといってもこの量!!普通の店と同じぐらいの値段だけど量は2倍近くあるから、ぜんざいだけでもお腹が膨れる!」
俺は
やわらかいスポンジに特製の小豆の生クリームを付けて食べると、口の中で甘さが広がりスポンジがすぐ溶けてしまう感覚だった。いつの間にか俺は無意識に言葉を放っていた。
「おいしい・・・・!!」
するとなぜか得意げに夜明が説明した。
「だろ!!流石、この守川市で5本の指に入る絶品デザートの店だよな」
「え!?そんなに有名な店なの!?」
「最近注目が集まってきたんだよ!だから早く来ないといつの日かこのデザートを食べるのにも凄い時間を掛けることになるぜ」
「甘いもの好きだよなー夜明は」
「まあな!でも個人的に一番おいしいのは沢山の種類がある中で特にミルフィーユが美味しい星が丘大学の近くのケーキ屋さんなんだが名前は忘れた」
〈ピール・ヴィルメのことかしら?〉
「そうそう!そんな感じの名前だった!白音ちゃん行ったことあるの?」
〈あるわよ。確かにミルフィーユはおいしかったわ〉
俺はこの後の夜明の言葉を予想もしていなかった。いやそれよりもその言葉を聞いた彼女の反応に驚きを隠せなかった。
「白音ちゃんはスイーツが好きなの?」
彼女は文字を打っていたしかしそれよりも早く夜明の言葉が
「それとも好きな人とスイーツとか食べに行くための予習とか??」
彼女の手が止まった。ただそれだけではなかった。彼女の瞳には何も映っていないように見えた。
そういえば前も教室で終桜祭の出し物を決めたときにも今思い出せば彼女の瞳はこんな感じだったような気がする。あの時は”ありがとう”だったけど今回は何が引き金になったのか全く分からなかった。
彼女はしばらくすると文字を打ち始めた。
〈私、お手洗い行ってくるわ....〉
彼女はすぐに席を立ち、席を外した。
彼女の姿が見えなくなると俺は夜明に向かって少しばかり荒い口調で言った。
「夜明!!いきなり何言ってるんだよ!」
「白音ちゃんには申し訳ないことをしたと思ってる。」
「なら・・・!!」
「あくまで予想なんだが彼女は昔好きな人を失ったのかもしれない」
彼女は本当は何を失ったのか。いや誰を失ったのか。
俺たちは分からなかった。
一人を除いたテーブルに少しだけ
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