伝承Ⅸ
それは昔の話。といってもそれほど昔でもなく、最近の話。
この町の森には神の娘が住んでいると言われていました。
しかしその森には一度入ると戻れないなどと言われていて、立ち入ることが禁じられていて、結果的に誰も少女の姿など見たこともありませんでした。
そこで、父を戦争で失い、母を病気で失い、一人畑仕事で少し稼ぎながらなんとか生きている18歳の少年がいました。
その少年は日々の生活に疲れ、自分の身を案じるために、森へ踏み入れたのです。
彼はもうあの家へ戻れないように、遠くへ、遠くへ、茂みの草を掻き分けながら足場の悪い道とは言えないような道を一生懸命駆けていきました。
すると、突然一枚の花弁が彼の頭の上にひらり舞い降りて、彼はその花弁を手に取りました。
「変わった色の桜の花びらだな」
そのまま彼は前へ歩いていくと一本の大きな桜の木、割と新しい赤色のポスト、そして桜の木の下で眠っている一人の美少女を見つけました。
少年はしばらく不思議そうな顔をし、少女の方へ近づき彼女の顔をじっくり見つめていました。
「綺麗な顔立ち・・・」
すると、その声に気づいてか、少女は目覚めました。
「あなたは誰??名前は??」
「僕の名前はフウタだよ」
「シロナっていうの!」
それからというものの少年と神の娘は仲良くなり、毎日少年は畑仕事を終えては森の中に通ってました。
「いつもお父さんとはどうやって話しているの?」
「お父さんとは夢の中で話しているの!とっても忙しいみたいだよ!」
彼女にはとても不思議なオーラがあり、森からものすごく好かれているため、神の娘と言われても少年はあっさり信じることができました。
しかし戦争は
「じゃあ行ってくるね」
少女は悲しそうな瞳で少年を見送りました。
その夜、少女は夢で父に話しました。
「お父さん、フウタはいつ帰ってくるの?」
「帰ってくるのは難しいだろうな」
「どうやったらはフウタは帰ってくるの?」
「戦争が終われば帰ってくるだろうな」
すると少女は突拍子もないことを言ったのです。
「じゃあお父さん私の願いを。大事な人を助けて!」
「わが娘よ、願いを叶えるのには対価が必ず必要だ。どんなちっぽっけな願いでもな。しかもどんなことが起こるかはわからないぞ。それでもか?」
「うん。お願いしますお父さん」
彼女の意思は固かったのです。
きっとこうなることを神はわかっていました。
普段自分は娘とは会えず、彼女はずっと一人っきりでした。
しかし少年とあってから彼女は見違えるほど楽しい日々を過ごしていたのです。きっと少年なら娘を幸せにしてくれるだろうと。
「わかった。いいだろう叶えようその願い」
すると次の日、戦争が終結したのです。この小さな村に知らせが来るのはもう少し後のことでした。
数日か経って、少年は無事に彼女のもとへ帰ってきました。
そして、少女と少年は結婚し、一人の子供を授かりました。
「なんだ別にいい話じゃんか、本当かどうかは知らないけど」
「夜明、一言余分!」
ただ一つ知らないことがわかった。
「願いを叶えるのに対価が必要なんて話初めて聞いたぞ」
「やっぱり蒼人もそう思ったの!京華この下巻は無いの??」
「ごめん。うちにはないなぁ」
すると一人の無口な少女が手に持っていた湯呑を置き、携帯を取り出した。
〈じゃあ次の目標が決まったわね〉
「そうだな。下巻を探そう」
「この後の展開も気になるしな」
「ハッピーエンドなのに続きがあるのが何かありそう」
4人とも下巻の内容が気になった。あの続きに何があるのだろうか。
あのまま二人の結婚生活でも描かれているのだろうか。それとも・・・。
俺たち4人は次は何処にあるのかなどと、話し合っていた。
すると仲間はずれ状態の京華は不満そうな口ぶりで話してきた。
「結果みんなは、なんで伝承を調べているわけ?」
俺たちは顔をお互いに見合った。
あまり巻き込みたくないが、ここまでいろいろ良くしてもらったし、二つの思いが混同する。
そんな中、緋菜がこの静寂を破った。
「いいよね?蒼人」
俺は首を縦に振った。
こう言われては断りようがない、だがそれでよかったとも思う。
無知ほど怖いものはないからだ。
俺たちは京華に今までの経緯を丁寧に説明した。
最初に時が止まったこと。二回目の時が止まった時、白音と遥さんも動けたこと。遥さんに相談したら、伝承が関わっているということ。
すべてを聞いた京華は驚きが隠せなかった。
「よく緋菜と彼方はこんな話信じれるわね」
それもそのはず、実際に時が止まった状況を体験していない二人でさえこの信じがたい状況を飲み込んでいるからだろう。
「いや、俺だってこんなこと未だによくわかってない。けど蒼人が嘘を言う奴じゃないし、親友が困っているなら助けるのがダチってやつだろ」
「私も実感はなくても二人の手助けをしたいもん」
すると、京華は納得した様子をみせた。
「奏多。あんた以外に熱い奴だったのね」
「なんだよそれ!!俺が熱い奴だと可笑しいか?」
「まあね」
俺たちは笑っていた。この後はクラスのことなどを話続けた。
だが一人。無感情の少女は何度もその絵本を真剣な眼差しで読み返してい
た。
いつもでは有り得ないほど、うるさい部屋の扉にもたれ掛かって、扉越しに話を聞いていた和服姿の女性は、扉から離れ廊下を歩き出した。
すると、彼女は手に持っていた携帯電話から誰かに電話を掛けた。
「どうした
「久しぶり遥。1年ぶりぐらいかしら?」
「で何の用だ?」
「遂に始まってしまったようね」
「誰から聞いた?」
「あなたの知り合いの可愛い可愛いお二人さんよ」
「そうか、どうせ盗み聞きでもしたんだろ?」
「それは内緒♪でもうちの娘は大丈夫かしら?あの子も一応、
「まあ、100%大丈夫とは言えないが、今はあの二人だから大丈夫さ」
「そうなのかしら、でもあの二人も可哀想だわ」
「仕方ないそういう運命だから」
二人はこのまま沈黙を続けた。
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