プロローグⅢ

大学から徒歩三分しかも大学と駅との一直線に続く商店街にあるので立地はいいのだが、モーニングで有名な大規模チェーン店の喫茶店が向かい側にあるせいか、あまり繁盛していない俺のいきつけの喫茶店アリス。だが俺みたいなあまり人のいない所でゆっくりくつろぎたい人にはうってつけであるため、常連客も少なくはない。いわゆる町の喫茶店である。

現在、喫茶店アリス前。


「なんだぁ、喫茶店アリスのことだったんですね。」

「知っているのか?」

大学から駅までの一本道にあるここの喫茶店を電車通学している

さゆりならば一度は見たことはあるだろうと、言ったあとにその言葉

の選択を間違えたことを感じた。

そしてさゆりは間もなく俺の言葉に返答を返してきた。

「もちろんです。」

ですよねー。やはりこの質問は失敗した。

そしてなぜか、さゆりはぷすーっと頬を膨らませ少し不機嫌そうな顔で

言った。

緋菜ひなさんが働いている喫茶店です。知ってて当然ですよ!」

「ん?」

思ってたのとは違う返答が返ってきた。

そしてそこにはさゆりの言葉からは聞くはずのないと思ってた人名が挙げられた。

「なぜ緋菜の名前を知っている......?」

「あれ?言ってませんでしたっけ?私、緋菜さんとは知り合いですよ」

「そんなことは聞いていないが.......」

「そういえば気になってたんですが、先輩は緋菜さんの彼氏ですか?あ。でも先輩モテなさそうだからありえないか」

「ちげーよ。あいつには他に彼氏いるし。というかさらっと俺をディスるn..」

「さぁ先輩、お店に入りましょう♪」

「無視かよ....」


店のドアを開けると軽快なベルの音と明るく元気な声が店内に響き渡る。


「いらっしゃいませ」

「よっ!」

「ひーなーせんぱいっ!」

俺は手を挙げ軽く挨拶し、さゆりは一人の女性店員のもとへ駆け寄った。


「どうしたの?この二人で来るのは初めてじゃない?」

各務原緋菜、俺と夜明の中学校からの幼馴染で大学は俺たちとは違う東山大学へ進学そして今はアリスでバイトをしている。男女問わず人気で姉御肌のせいか特に女子の後輩からの人気は絶大であった。まあ今もみたいだが。

「とりあえず、あの窓側の隅っこ席でいい?」

「ああ」


俺は頷き、俺とさゆりは窓側の隅の席に座り、緋菜がオーダーを取りにこちらへ来た。

「緋菜、お前こいつに俺のこと何かしゃべってたのか?」

「んーとね、偶然この辺りで迷子になってるさゆちゃんを見つけて、星ヶ丘に通ってるていうから、幼馴染の話してたら偶然蒼人と知り合いだってことを知ったんだよ」

「結局、話してるじゃんか....」

「先輩の悪口とかストーカーしてくるとか喋ってました」

「おい、ストーカーしているのはお前だろ」

「断じて違います!いつも偶然私が行くところに先輩がいるんです!」

「ありえねぇだろ....」

「二人共仲がいいのね」


『違います!』

『ちげーよ』

その二人の声は綺麗に重なった。

少しの間を置き緋菜はボッそっと呟いた。


「さゆちゃんってどこか、しーらに似ているかも。」

その言葉にはどこか切なさが隠れていた。



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