2010年
プロローグⅤ
2010年3月中旬
「やっぱり草原に寝っころがって風に当たるのは気持ちいいなぁ」
俺は仰向けで春風に当たるのを楽しんでいた。
俺は元々外で遊ぶのが好きだったごく普通の少年だった。
しかし二年前に
だが幸運なことに、俺はたまたま風邪をひいて検診してもらったときに春息病を発症していることがわかったのでかなり早期に発見できた。
絶対安静のための長い病院生活を終えた俺は学校が始まるまでの春休みの間だけ、町の北側の森にある療養所に預けられることになった。
しばらくして俺は立ち上がり療養所に帰ろうとした時、後ろの木の雑木林から出てきた一人の女の子が話かけてきた。
「ねぇ、あなた最近ここに来た子でしょ?」
「うん。そうだけど」
「あなたも何かの病気なのかしら?」
「春息病だよ。」
「わたしもよ 春息病。」
「で、君はなんで森の中からでてきたの?何か探していたの?」
「花びらが浅葱色の桜とその木の下にあるポストよ」
「へぇ。花びらが浅葱色の桜なんてあるんだめずらしいね!」
「あなた何も知らないようね」
「え?何のこと?」
「伝承よ、伝承」
「伝承って.....なに?」
少女はため息をついたがやれやれと思い説明してくれた。
「伝承っていうのは、昔からの出来事を語り継いでいくというか、古くからの言い伝えみたいなものかしら」
「なんとなくわかったけど、その伝承がどうかしたの?」
「この町にいる魔女から聞いたんだけど、その木の下のポストに名前と願い事を書いた紙を入れると願いが叶うらしいわ」
「なんだか七夕みたいだね」
「そう言われてみればそうかしら」
「なんだか楽しそうだね!俺も探すの手伝っていい?」
「いいわよ、人は多いほうがいいですもの。そういえばあなたの名前聞いていなかったわ」
「俺の名前は如月蒼人。君は?」
「私の名前は・・・・」
高校2年生になった今でも6年前の春休みの記憶はここで途絶えている。
正確には4月の中旬に隣町の大きな病院にいるところまでの記憶がない。
つまり約一か月記憶が失われているのだ。
胸にぽっかり穴が開いている感じがする。何か大事なことが欠けている気がする。あの少女の顔さえも思い出せない。
そしてあの少女は誰だったのだろうか。
止まっていた時間はここから始まる。
プロローグ(終)
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