第4話 伝説。
「なんかあった?」
さりげなく水を向ければ話好きのおばちゃんは滑らかに喋りだした。
「それがねえ、最近毒を持った魔物が出てるらしくてギルドからも仕入れを増やしてくれって言われててねえ」
「…毒持ちが」
「そうなんだよ、それにね、他の魔物も増えてるって話だよ。ハルちゃんも気を付けなねえ」
「…なるほど。ありがとおばちゃん。じゃあゲドクポーション買ってくよ」
「はい、毎度ありがとねえ。おまけ入れといたからね!」
「うん、ありがとー」
ガサガサする質の悪い紙の袋を抱えメインストリートを進み、武骨なメタルプレートの掲げられた店に入ると酒の匂いをさせた赤ら顔のドワーフが出迎える。
「ナイフのメンテか、ハルキ?」
「んー、じゃこれも頼むよ」
「お、珍しいな」
メイン以外の武器も渡した俺にドワーフの親爺はひょいと眉を上げた。
「最近魔物が増えてるらしいし」
「ああ、この辺に出なかったやつも見かけたって話だ」
「物騒だよね」
「腕に覚えのあるやつも油断ならねえってよ。そこで待ってな、すぐ終わるからよ」
「よろしく」
研いでもらった武器を受けとるとポーションの袋と一緒にアイテム袋に収納し、親爺に礼を言って店を出た。
マーケットの端まで行くと暗い色合いのテントを潜る。
香を焚き染めた独特の空間に目を細める。
「おや、
幾重にも垂れた布の奥から現れたしわくちゃの婆さんに苦笑すると婆さんも歯抜けの口許を緩めた。
「ふぇふぇふぇ、詮索は不要じゃの。どおれ、何を売るかね?」
この婆さんは魔法使いであり魔法屋魔道具屋であり、情報屋でもある。
つまり
指標となるイベントやレアアイテムの情報を聞くためによく来ていた。
今のここでどれだけ意味があるかはわからないが聞いてみるべきだろうと思った。
俺は小さくシワシワの婆さんの手にここでの通貨、銅銭数枚を渡す。
「情報が欲しい。最近の
婆さんは俺がそう口にすると真顔になってじいいっとこちらを見つめ、そろそろ穴が開くかと思った頃目を閉じ歌うように語り始めた。
「ある日この世から獣が姿を消した。魔物が跳梁跋扈し、人類は滅亡の危機に陥った。人々は女神に願い聖獣が生まれる。聖獣は獣を守り魔物を倒した。やがて聖獣は姿を隠し人は歴史を忘れる」
それまで存在しなかった脅威が現れ、対策として女神から聖獣を授かったってことか。
けど聖獣は姿を隠しただけで今も居るなら魔物が増えることはないはず。
疑問を浮かべると図ったように婆さんが再び口を開く。
「数千年より前から続く言い伝えじゃ。…聖獣が封印されたのじゃろう」
「…分かるのか?」
「情報屋じゃからの」
婆さんはいかにも胡散臭い笑みを浮かべる。
しかしゲーム設定そのままのキャラクターに少し安堵してしまう。
ネトゲの常識が通用する部分がセーフティゾーンの他にもあるのだ。
今までと違う
ほんのわずかにだが光明が見えた気がした。
魔物の増加という異常を解消したならもとの世界に戻るのではないか。
ひいてはログアウトできるようにはならないか。
そう考えると俺はテントを潜ろうと布に手をかける。
「助かったよ、婆さん。また来る」
「ああ、情報が欲しかったらまたおいで。旅人の上に女神の
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