第15話 モフラー道。

改めて旅立ちに際しギルドで離れる手続きをしたあと村を出る。

「よし、行くか。よろしくなブロウ」

「ブルルん」

返事をするようにいななきを返してくれたのは村長から進呈された青毛黒色のまだ若い牝馬だ。

普段農耕馬として働いていたんだが、長期間の旅になるかもと言ったら長旅なら馬がいるだろうと。

豹獣人としての脚力もあるし遠慮しようとしたんだが是非と押しきられた。

村にいるときはブロウと一緒に農作業の手伝いもしていたからかな。

ブロウ自身も俺になついてくれていたのもあり、有り難く頂くことにした。

ちなみに現実世界では馬に触ったこともないがこの世界では馬術もできる。

こういうところはゲームの仕様のままで助かった。

ライトはまだ小さいから俺の懐が定位置だが大きくなったら並走できるかもしれない。

それも楽しみだ。


ブロウの背に揺られて街道を行くと俺が自分でトップスピードで走るよりはゆっくりだが、サイオウへは馬車より早くついた。

荷車を引くよりは早いし、並足でなければもっと早いだろうな。

街中では降りて手綱を引いて歩く。

ギルドの方へ通りすぎる旨を話してギルマスに面会した。

「やあ旅人どの。彼らはどうでした?」

「頼もしい限りです。俺は旅に出ますが安心して任せられます」

「そうですか、それは重畳。ところで白エルフの少女は…」

「ええ、彼女…仮にスカイ、と名付けたんですが」

「名付けた?というと…」

ギルマスの長い耳がピクリと跳ねる。

「どうやら記憶喪失のようで。わかったのは白銀の髪に薄い青の瞳で一人称が妾、ってことです」

「ふむ…やはり心当たりはないですね。ですが別の集落にいたのかもしれないし、気にかけておきましょう。それとこれは同族を助けていただいたお礼と言ってはなんですが」

「これは?」

銀のイヤーカフを渡されて目を瞬く。

なんとなく魔法が込められている気配を感じるカフを見ながら問うとエルフのギルマスは目を細めて笑みを浮かべた。

「エルフ族に縁の印と言いますか集落の通行証のようなものです。旅人どのなら旅の途中で集落に立ち寄られればよいかと」

「良いのですか?」

「ええ。通信の魔道具で歓待するよう伝えましたし、スカイさんの情報収集にもなれば」

「…ありがとうございます。大事にします」


用がすみギルドを出ようとしたところでサラの姉、犬獣人の受付嬢ユラが歩いてくるのが見えたが、声をかけようとしてとどまる。

柄の悪そうな男が絡んでいったのだ。

「ユラ、今夜どうだ?俺らうまいぜ~」

「…冗談じゃないわ。願い下げよ」

「ああん、こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって」

ごろつきらしき男の一人がユラの手首を掴み無理矢理連れ去ろうとしている。

さすがに捨て置けないよな。

一歩踏み出したところで男が言ってはいけないことを口にした。

「犬っころの癖に人間様に逆らってんじゃねえよ!」


ブッチーン


一瞬でトップスピードに乗り二人の間に割り入って男の手をサラから引き剥がす。

男…ごろつきその一が俺を認識する前に鳩尾へ膝蹴りを打ち込み身体がくの字になった男の無防備な背中に両手で拳を作り振り下ろした。

「がっは!」

くの字から今度は海老反りになった男は乾いた地面に倒れ、痙攣する。

「な!?いつの間に!…っていうか誰だお前!?」

この間三秒。

倒れたごろつきその一を放置しその二の質問を無視して顔面に容赦なくストレートを叩き込み吹っ飛ぶ前に背後へ移動し踵落としをキメた。

「………ッ!」

男は声もなく沈む。

安心しろ、魔力は込めていないただの打撃だ。

「ふ~…もふもふをおとしめるものは地獄へ堕ちろ…」

それが俺の行く道モフラー道だ。


ごろつき二人をきっちりシメてまとめて道の端に積み上げておくとサイオウの警備担当者はすぐにやって来て引きずっていった。

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