第22話 砂漠の商人。
日は落ちかけ肌寒くなってきた。
乾丘を疾走するライトを追うのは体力がいったが、ぽーの姿を捉えるまで然程時間はかからなかった。
バタバタと暴れる翼と抜け落ちる羽が見えると怒りで頭が沸騰しそうになる。
ぽーは何者かに連れ去られているのだ。
らくだに騎乗し抵抗するぽーを抱えている人影は小さかったが。
俺はナイフをその人物のマントと手綱に向け投擲した。
シュッと風を切る音がしてマントと手綱を切り裂いていく。
「ヒッ!」
驚いて手を離した隙にぽーが飛び立つ。
「クルるっ」
残った人影を掠めるように更にナイフを投げると体制を崩した。
「がウっ!」
「ひ、ヒエえェェ!」
ライトの追い討ちに悲鳴をあげてらくだから落ちた人影に警戒したまま目を凝らすと、それは少年だった。
「子供…?」
肩にとまったぽーを撫でて少し落ち着きつつ近づくと子供が震え上がる。
ナイフを手にした大人に迫られれば当然かもしれない。
殺す気もないがこのまま見逃す気もしない。
仲間をさらわれかけたのだから説教くらいはするべきと思うんだ。
「…なんのつもりでぽーを誘拐した?」
「ご…ごめんなさい!エルフポッポは高値で売れるからつい!」
「つい、で盗みを働いていいのか?」
「う…」
「人のもの、いや仲間を意思に関係なく連れ去っていいと思うか?」
「…ごめんなさい…っ」
始めのうちは言い訳する風にこちらに媚びるような目をしていたが、最後は悄然と項垂れた少年にため息をつく。
ナイフを納めると警戒を解いてライトもお座り姿勢になった。
説教はこれくらいにして改めて事情を聴くか。
攻撃手段も無さそうな子供が一人で
「おい、居るんだろ…保護者、出てこい」
「……………いや、申し訳ない」
らくだの影から出てきたのはサーベルを腰に下げた髭面の男だった。
身のこなしからそれなりにデキる者だろうが、冒険者という感じではない。
反撃の意思はなさそうなので黙って釈明を聞こうか。
「私たちは世界中で仕入れをしながら商売している旅商人でして。このビリーめは修行中の身なのです」
商人であるというなら尚更窃盗のようなマネは信用問題に関わるだろうに、と話を聞いていて眉根が寄る。
俺の表情を見て然りと頷く髭の商人。
「実は今回は特に貴族様に依頼を受けておりまして、お嬢様のために鳥を一羽仕入れる約束だったのです」
「だからと言ってこれは無い」
「ええ。ええ。勿論正規のルートから仕入れる筈でした。しかし渡りをつけていた相手の船が運悪く難破しまして…前金をお返しして謝罪する予定でした」
そこでちらりと俺の肩にいるぽーを見るがぽーはそっぽを向いて羽繕いなぞをしていた。
苦笑しつつ商人は話し続ける。
「貴族様に失敗を報告するとなれば悪くすればもう王都では商売ができなくなると焦っていたのでしょう。エルフポッポは裏ルートでは目玉が飛び出るような高額で取引されるので、血迷ったのですこの未熟者は」
縮こまって聞いていたビリーは未熟者と言われびくりと肩を震わせた。
弟子であって血縁ではないらしい二人は全く似たところがない。
しかしビリーにとって彼は親代わりでもあるのだろう。
心配し焦るあまりにやってはいけないことをした。
事情はわかった。
情状酌量の余地はあるだろう。
だが商売人としては最悪の一手だ。
髭の商人も黙っている。
側で見守ってはいるが手出しをするつもりはないようだ。
恐らく俺が何かしなくとも落とし前はつけるのだろう。
ぽーは無事戻ったのだし、まあここは引いて置くか?
「商人なら信用第一だろ。二度目は無いと思え」
「…ありがとうございます。ビリー」
「申し訳…ありません。二度と、しません!」
しっかりと目を見て答えた二人に頷き、もう今夜は寝ようかときびすを返した。
「あ!お待ちください!」
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