第23話 オアシスの畔で。

「何かまだ用が」

「いえ、このままお別れしては商売人の名折れ。せめてお詫びを…もしや貴方は旅人様では?」

短時間の観察で俺が冒険者ではなく旅人と見抜くとは、なかなか。

黙って先を促すと商人は懐から巻き紙を取りだし書きながら喋る。

「これでも私は旅商人として顔が広いので、旅人様のお役にたつであろう人物をご紹介いたします。こちらをお持ちください」

受け取るとそれは流れるような達筆の手紙である。

最後に華押のような模様とサインが入っていた。

「王都に住むドワーフと小人の魔法鍛冶屋がございます。こちらを渡していただければ融通してくれる筈です」

魔法鍛冶屋ということは武器や防具のマジックエンチャント等を請け負う店だな。

これはありがたい。

遠慮なく受けとることにする。

オアシスに戻りながら流れで話を聞くと依頼を受けた貴族は王都にいるということで道行きを共にすることになった。


砂漠では暑い中歩くより寒い夜に動く方がいい気がするがここでは魔物が蠢いているのだ。

夜はじっとしている方がこの世界では安全なのである。

そういうわけで商人二人、一人は見習いで半人前だが…まあそれはともかく二人と共に今夜はオアシスで休むことにした。

水場から少し離れたヤシの木の下に適当に座るとブロウも膝を折って伏せるような体勢になる。

そばにライトも寝そべり、その背中にぽーが丸くなった。


俺は木からちょっと距離をとって火を起こすとアイテム袋から干し肉を出して適当な枝の切れ端で刺して地面に突き立てて炙る。

こうすると少し柔らかくなる気がするのだ。

それからオアシスの水を汲んだ小さな鍋を火にかけて、固形スープの素を投入しエルフにもらった野菜やチーズをナイフで切り落として入れる。

軽く煮立ったらひと混ぜすれば出来上がりだ。

パンも袋から出しスープに浸して食うと旨い。

干し肉も油が滴るくらいでかじるとじんわり甘味が広がる。

ライトもブロウも、ぽーも同じものを食べる。


俺たちから少し離れたところで商人二人も似たような食事を摂っていた。

携帯食ってのは大体みんな似通っているもんだ。

それでもバランスのとれた食事なのだからまだましな方で、余裕の無いやつだと肉だけとかになる。

エルフたちにもらった野菜があったり固形スープの素なんかはマジックアイテムで作ったものだから貴重なものだし、俺は旅人という立場もあって恵まれていると思うが。

あの二人の場合は商人の伝手つて、なんだろうな。

面倒事かと思ったが意外とこの出会いは幸運だったのかもしれない。


食べ終わったあとは歯磨きをして武器の手入れを始めた。

水流のカトラスに刃こぼれのひとつもないことを確認するときれいに拭き上げベルトにつけ直す。

投擲用の無限ナイフはいいとして、めり込むサックも同じようにヒビや破損がないかチェックして拭いて仕舞う。

風の脚甲は撫でる程度に拭いて、今使ってるのはこれだけだな。

アイテムの不足も…まあ王都に着けばなんとかなるしそれまでは大丈夫だろう。

一通りやることを済ませるともう三匹はグースリープである。

俺もそろそろ寝るか。

冷えてきたのでマントにもくるまりみんなと寄り添い寝る体勢になる。

現実世界でももふもふに囲まれて寝ていたけどこんな風に野外で寝ることはなかった。

見上げるとヤシの合間に美しい星空が広がっている。

サヤサヤと風がヤシを揺らし水面を撫で微かな音が子守唄のように眠りを誘う。


戻れログアウトなくなって何日目だったか。

タローヒメピーちゃんリュウジみんな元気かな…。

ペット用フード棚に入ってるの知ってるし水道水もセンサーでヒメが自分で出してたりしたから、ご飯は大丈夫だと思うけど。

少し寂しく思ったとき身動ぎしたライトの毛皮がもふっと俺の頬をくすぐる。

ライトもブロウもぽーも可愛い。

三匹と別れるのも寂しい。

できればどちらとも一緒に遊びたいとこだが…。

まあ兎も角こっちメタモルモフモフワンダーの問題を解決してから、だよな。

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