第8話 第二の街。

慌てて俺は魔物の腹を更にかっさばいてその手を引っ張り出す。

魔物の体液でどろどろになっていたが手の持ち主は可愛らしい少女だった。

しかも耳が人間よりも長い。

肌が白いのでこの世界でいう白エルフだろう。

ちなみに肌が黒いのはもちろん黒エルフだ。

「どうして…いや、魔物に襲われて丸飲みにされたのか」

しかしこんなでかい魔物に不用意に近づくとも思えないが…。

ともかくこのままにはできない。

魔物の処理もでかすぎて俺一人じゃ骨がおれるし、少女の治療もいるだろう。

俺は少し離れた場所で目を剥いて震えているジョンに助勢を頼んだ。


村の男手を集めて魔物はなんとか地中に埋めた。

使えそうな素材は内蔵から毒袋が出たくらいだった。

少女は多少胃液で火傷ができていたがポーションで治ったようだし、医療魔法で診て内蔵も問題はないらしい。

ただ意識が回復していないので村でただ一人の医者に預けている。


俺はギルドに行き事情を話した。

「新種…か。まさか村の入り口付近に出たとはな…」

話が話だけにすぐギルドマスターが出てきた。

ここはギルド二階のギルマス部屋だ。

応接用に用意されたここでは精一杯贅沢な調度品のソファに向き合って座っている。

深刻そうに顎髭を撫でる男は今の村長でもある。

熊のような大男で腕っぷしにものを言わせた斧槌使いだ。

「即刻戦力追加が必要でしょう」

「うむ…しかしそんな報告を聞いたあとだ今いる冒険者を外に出すのは惜しいが…」

渋るギルマスの悩みもわかる。

ただでさえこの村は小さい。

旅人も減り魔物が増えているのだ。

元々ある戦力も少ないのにこの状況では人を出しにくいだろう。


「俺が行きますよ。元々サイオウに向かう予定でしたから」

申し出にギルマスはいいのかと何度も聞いてきたが、俺は大丈夫だと請け負った。

思ったよりこの世界メタモルモフモフワンダーの変異は早いような気がしたからだ。

早く情報を集めて行動しなければいけないという気がしていた。


改めて準備を整えた俺は多少の討伐を繰り返しサイオウへと急ぐ。

今度は自分一人の都合ではないので間引きはしつつもスピード優先だ。

ミミズの魔物を埋めた道程の真ん中辺りを走っているとなんとなく黒い影を見た気がしたが、襲ってきたわけではないから狂暴な魔物ではないと放置する。

妙にその小さな影が気になってはいたのだが、今はとにかくサイオウのギルドへ追加戦力の要請を通すのが先だった。


村よりも遥かに堅固で大きな門が見えると足を緩めた。

名前までは知らないが何度か見た覚えがある門番にギルドカードを見せると、快く通してくれる。

いつもなら挨拶して観光がてらふらふらと街見物などと洒落込むのだが今日は真っ直ぐギルドへ向かった。

雨がっぱのフードを下ろし蒸れてきた耳を震わせ、村よりも大きい三階建てのギルドに入り犬系獣人の受付嬢に声をかける。

彼女は村で働いているサラさんの姉なのだ。

「あら?ハルキくんじゃない。今日は観光はいいの?」

「うん、ちょっと緊急です。ギルマスは?」

「…いるわよ。ちょっと待っててね」

察しのいい彼女は俺の言葉にすぐに表情を引き締め早足で階段を上っていった。


そんなに待たずに戻ってきた彼女につれられて三階まで上る。

階段を上りきって右手のドアを受付嬢がノックすると中からどうぞと返答がありドアを開けると、俺だけを通した。

中は観葉植物らしい緑がいくつかと立派なソファセットに、どっしりとした執務机がある。

壁際にぎっしりと本のつまった書棚がずらりと並んでいるのが印象的だ。

執務机に座っていた細身の男性が立ち上がると会釈して近づいた。


「西外れの村から来ました。ハルキです」

彼は長い耳をそよがせて如才なさそうに笑みを返す。

「ようこそ、ハルキ。旅人の獣人戦士殿。本来なら色々おもてなしでもしたいところですが…緊急とか?」

「はい。…村の入り口付近に未確認の新種と思しき魔物が出現し、これを撃退しました。村の防衛戦力の増強をお願いしたい、と村のギルマスからの要請です」

俺の説明に白エルフのギルマスは思慮深く頷く。

「わかりました。…そうですね、ランクBパーティーをまずは向かわせ調査と防衛。その後魔物の性質強さに合わせて冒険者を逐次投入しましょう」

「ありがとうございます」


要請が滞りなく済んでホッとした。

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