第7話 魔虫。

サイオウに行くのを後回しにして村へ戻ることにした俺は街道を外れず真っ直ぐ村を目指していた。

朝から移動していたのでまだ昼時だ。

少し曇り始めた空を見て顔をしかめる。

「今までこんなイベントステージでもない所で天気が変わったことなんかなかったのに…」

呟きアイテム袋から取り出した雨がっぱ(防御補正アリ)を装備して道を急いだ。


案の定降ってきた雨に視界を邪魔されながら、もう村の入り口が見えるという地点でそれは現れた。

というか雨に紛れて降りかかってきた。

「!?これはッ」

跳びすさりながら〈蹴 技〉しゅうぎ旋風つむじを放つ。

足に絡み付くように発生した風が蹴りを出すことによって降ってきたモノに向かって飛ぶ。

「ジャッ!」

数匹が旋風の軌道にぶち当たりまっぷたつになって地に落ちた。

蠍のようなハサミを尻尾に持ちその胴には細かな節足がたくさん生えている。

色は赤黒く百足と蠍の中間とでも言うような姿形ナリをしていた。

そんなものが気がつけば俺の周囲を囲むように無数に存在している。

「…見たことのない魔物だな…」

この世界でしばらくプレイ経験があるが、記憶を遡ってみても覚えがない。

やはり、新種なのだと思う。


しかしスキル格闘の一番下級技で倒せるようなのでさっさと殲滅してギルドに行こう。

輪を狭め飛びかかろうと蠢く魔物…魔虫か。

この範囲なら中級技でまとめて倒すのがいい。

俺は腰を落とし尻尾をそよがせ足に力を込め土を蹴りあげ勢いよく廻し蹴りのように回転する。

足に集めた風属性と蹴りあげた地属性の二つを使い暴風を巻き起こした。

〈蹴技〉しゅうぎ暴風となった土のつぶてと風のかまいたちが魔虫を襲いズタズタにする。

「ジャアアアアアッ!!」

回転を止めるとボタボタと魔虫が落ちる。

ちょっと待ってみたがやはり消えなかった。


さわりたくないのでまたシャベルで埋めようとアイテム袋に手を突っ込んだ。

しかし何も出さずに毛を逆立ててその場を飛び退く。

「…ッ!」

一瞬前まで俺がいた場所には再び降ってきた巨大な魔物がいた。

ウミウシのようなゴーヤのようなモノが。


「…オオオオオ」

先に出くわしたミミズよりでかい魔物は地鳴りのように不気味な声を出すと、体中のイボからシュルシュルと触手を伸ばし鞭のように地面を叩いた。

触手に当たった魔虫たちが黒ずんでその身を崩れさせていく。

いや、ただ崩れているのでなく分解されているのか?

「オオオォォ…」

魔物はブルブルと体を震わせている。

魔虫たちという経験値えいようを取り込むことに歓喜しているらしい。

「食べてやがる…キモ」

姿形だけでなくその生体に嫌悪を感じ小さく呟くとそいつは俺という新たな獲物を見つけ、再び歓喜にブルブルと震えた。


ウニョウニョ蠢き俺の方に向かってくる魔物に軽く舌打ちをするがもとよりここはもうホームのすぐそばなのだ。

戦闘は避けられなかった。

手始めにナイフを投擲してみるがぶよぶよの体に弾かれる。

まあそうだよな。

飛んできた触手をかわして旋風を放ってみる。

触手の先端がかまいたちで切れるがすぐに再生し出した。

「あ゛ー…」

これは端からいちいちやっても埒が明かない。

本体をやらねば…。

例によって例のごとくさわりたくないのでアイテム袋に入れておいたサブウェポンのショートソードを出す。

シンプルだが柄飾りに付いた宝玉に手をかざすと青い石が輝き刀身にきらめきが増す。

簡単に属性強化を施したショートソードを正眼に構え、〈蹴技〉しゅうぎ駿足を発動する。


俺を食らおうと飛んでくる触手を掻い潜り本体に突っ込んでいく。

近付くと鼻が曲がりそうな悪臭がしたが堪えて斬戟をぶつけた。

スキル剣術は上げていないのでほとんど素人の大根切りである。

「オ…ォゴオオオオオオ!」

しかし魔物は断末魔を残してしばらく震えたあと、動かなくなった。

念のため剣先でつついてみるが反応はない。

ほっとして肩から力を抜いたら、断面がもぞりと動いた。

「な、まだだったの…か、………ぇ?」

ビクンビクンとのたうつ体を見て距離をとろうとしたがその断面から覗いたものに固まる。


胃だか腸だかわからないが切断された内蔵から出ていたのは、白く小さな手だったのだ。

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