第9話 少女。

このあとはランクBパーティーの準備が出来次第村に戻る。

ちなみに俺たち旅人プレイヤーに明確なギルドランクはない。

というより規格外だ。

基本ステータスからして冒険者ギルドのメンバーより上の設定なのだ。

あえていうなら大抵の者はSからSSに当たる。


ふと彼の長い耳を見てそういえば、と思い出した。

「ギルマスは…白エルフですよね。実は白エルフらしい少女を保護したので村の医者に預けてきたのですが、行方不明の子とか心当たりありますか?」

「少女…ですか。さて…私は最近森に帰っていないので…でも二年前に帰ったときには何も変わり無い様子でした」

「…そうですか」

何かひとつでも手がかりがあればと思ったがそう容易くはないらしい。

まあ仕方ない。

一つ息を吐いて部屋を辞するかと きびすを返した、背中に声がかかった。


「その少女…回復したらその後は?」

「…考えてませんでした。意識が戻れば事情もわかるかと」

白エルフは見た目に反して長寿で知能も高い。

だから大丈夫だろうとあまり考えていなかった。

「ではその時に私も協力しましょう」

「ありがとうございます。彼女が起きたらまた来ます」

「ええ。お気を付けて」

ありがたい申し出に礼を返し、今度こそ部屋を出てギルドの一階に下りる。

サラさんの姉の受付嬢ユラさんにランクBパーティーとは門の前で集合と言われたので、俺もある程度補給に街へ向かうことにした。


サイオウは中心地に大きな市場マーケットを擁する貿易商業街だ。

そこに集まるものを目当てに客が、その客を目当てに行商の屋台が集まってくる。

結果的に経済が豊かで物資も豊富な街になっている。

俺自身贔屓にしている店もある。

天幕のある店、只のござの上に雑多に品を並べる店、様々な店に並ぶ客の間を縫って進み、白木の小屋に着いた。


「オジジ、いるー?」

「ああ?…おっハルキ久しぶりじゃのー魔法要るか?」

「嫌味か!適性ほとんど無いんだぜ、全く…」

「け、魔法屋に魔法以外のもん買いに来んのはオメーくらいじゃー」

「いつものことだろ?」

「そーじゃの、んで今日はなんぞ?」

背が俺の腰ほどしかなく体が白い髭で見えないほど長い爺さんは小人である。

魔法屋を営んでいるが旅人御用達の萬屋でもあり、俺はもっぱらアイテム補給に来ていた。

回復薬からネタアイテムまで手当たり次第に仕入れているのはオジジだろ、などと軽口を叩くとうっさいわいとノリがいい返しも懐かしい。


ともかくアイテムを十分に買い込みついでに魔道具も買っておく。

なにせ魔力はあっても魔法適性がない俺は属性攻撃に弱い。

補強は必要だからな。

今は火鼠の衣レアドロップで作った〈旅人の服〉に〈風の脚甲ブーツ〉という装備だ。

体術メインに中距離攻撃が主なので重くならないように気を使ってエンチャント防具を着けている。

「うーん…これは?」

「む、そいつはめり込むサックじゃのー」

「めり込む…メリケンサックに見えるけどな」

赤い手甲に固い指輪のようなものが付いた物が気になって手に取るとほんのりと熱を感じる。

「めり込むサックはのー炎属性じゃぞーお買い得じゃぞー?」

「へえ、じゃあこれも頼むよ」

「おっけぇじゃー。毎度アリー」


魔法屋を出た後すぐに門の前に行こうとしたが、観光客の噂を聞いて行き先を変えた。

なんでも教会にお祈りに行くのが最近の流行だそうな。

現実世界ではそんなに神様とか興味もなかったがここでは確実に影響があると思う。

女神の創りし聖獣探しだ、女神に祈るのもいいのではないかと思った。

まあ験担ぎってやつで。


観光客にくっついて歩いていくと白い尖塔が陽光にきらめく教会が見えてきた。

この世界では珍しいからくり時計とそれを抱えるようにして横座りする女性の白い像がある。

その女性を守るように蹲った獣の像。

これが聖獣か…。

白いたてがみが美しくも雄々しい。

っもふりてえ。

本物はきっとふわふわのモフモフ…はッ、トリップしてる場合じゃなかった。

もうそ、考え事をしている間に行列は進み、俺の番が来ていた。

教会の厳かな空気の中地下のひんやりした場所へ下りると床に魔法円のようなものが描かれており、そこには表のものより小さな女神像があった。

表にあった像と同じその女神の耳は長い。

白エルフに酷似していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る