第2話 孤高の戦士…?

俺は自室に入ってヘッドセットを装着しパソコンをち上げる。

もふもふのアバターが走り回りタイトルが表示された。

ログインをクリックしパスワードを入力する。

モフ××ハル×××

ユーザーネームはハルキだ。

一瞬視界がぶれた後、鮮やかな緑と澄んだ青い空が見える。

ホームタウンに指定している小さな村の近くだ。

セーフティゾーンの端である。

緑の森から振り返ると細い街道が伸びその先に門番が立つ村の入り口がある。

友人たちと待ち合わせたのはここであっているはずだが、まだ誰も来ていないようで見渡してもNPC村人以外の人影はない。

夕食の後で、と曖昧な時間で約束したため多少のずれは仕方ない。

時間潰しに軽く運動するか。

街道を外れ森に近づくとどこからともなくゴブリンが現れる。

初心者でも一人でなんとかなる雑魚モンスターの代表、ゴブリンだ。

俺はこのアバターのメインバトルスキル、格闘の構えをとる。


「ギャギャッ」


ゴブリンは手にした古びた斧を振り上げこちらに向かってきた。

湿っぽい風にアバターの耳がピクリと震える。

俺は腰を落とした構えから走り抜けた。

すれ違い様拳を繰り出しゴブリンの土手っ腹を殴った。


「グギャッ!?」

「お前はすでに死んでいる…」


振り上げた斧をそのまま、バッタリとゴーレムは倒れ込んだ。

振り向きもう動かないのを確かめるとふっと詰めていた息を吐き出す。


「なんちゃっ…て、え?」


ドロップを残し消えたはずのゴブリンが立っている。

いや、先程のゴブリンは消えドロップの下級の薬草が落ちていた。

その向こうに数匹のゴブリンと群れのリーダーらしき大きな個体がいる。

厄介な。

有無を言わさずゴブリンは襲いかかってくる。

群れとなり率いる統率者リーダーがいるということは、連携がとれるということだ。


俺の使用アバターは豹のハーフ、素早さのポイントが高い獣人。

そして猫科らしく跳躍力も高い。

俺はゴブリンの群れから距離を取りサブウェポンの無限ナイフを取りだし投擲する。


「ガッ」「ゴギョ!」「ギイイ」


命中率は上げてあるがわずかに外し、リーダーと二匹が残った。

仲間がられ激昂した二匹だがリーダーの咆哮指示に従い三匹同時にかかってくる。

二匹が左右から、リーダーが跳躍し背後に向かう。

だが。

子分ゴブリンを投げナイフで目潰しして二匹まとめて力任せに蹴り飛ばし、リーダーゴブリンを迎え撃つ。

威嚇の咆哮を上げてロングソードを繰り出してくるのを鋼の手甲でいなし、受け流していく。

ことごとく避けられ苛立ちに大振りになったロングソードを頭を下げてかわし、底に鉄板を仕込んだ皮のブーツで踵落としを決め、ついでにまわし蹴りで横っ面を吹っ飛ばした。


「グッゲエェ」


血を吐き倒れたゴブリンはゆっくりと消えていく。

残ったのはロングソードだけだ。


「…ふぅ」


戦利品であるその剣と他のゴブリンのドロップを拾いながら、首をかしげる。

ゴブリンなんか森の近くならたくさんいる。

だが街道沿いのこんなに会うことはほとんどない。

なにかが起きている。

嫌な予感に襲われてまわりを見るがやはりプレイヤーは視界に入ってこない。

現実世界でヘッドセットを装着した辺りをおさえて遠方数キロのプレイヤーまで把握できるマップを操作してみる。

だがどこにも、どこにも、プレイヤーが居なかった。

誰もいない。

友人も、他のプレイヤーもだ。

俺しかプレイヤーはいない。


ハッとしてログアウトキーを押そうとするがいつもなら白字に明かりが点っているのに、この時初めて気付いた。

灰色になり、ログアウトできなくなっていたのだ。

なんで!?

焦りつつもセーフティゾーンである街道に戻り、改めて操作画面を呼び出してみる。

だがやはりログアウトできない。

関連情報を探し掲示板を見る。

そこには―――――

_____________________

メタモルモフモフワンダー、シャットダウン!

緊急停止。現在調査中。

プレイヤーは全員ログアウト。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

無駄に絵文字が踊るそんなニュースが掲示されていた。

…俺、ここにいるんだけど…?


***


林田悠希ハルキ、十六歳。

現在行方不明迷子中


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