第3話 閉じ込められた。

掲示板を見てパニックになりかけるが、豹の斑紋がきれいに出た自分の尻尾を撫でて少し気を落ち着ける。

もふもふもふもふ、うん、落ち着け俺。

こんなときこそ冷静にならなければ、どこかで致命的なミスをおかしかねない。

しばらく尻尾をもふった後、もう一度メタモルモフモフワンダー公式掲示板を確認する。


_______________________

何らかの問題が生じ、強制シャットダウン。

運営は全プレイヤーをログアウトさせ現在調査中。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


しかし調査の結果もその後の報告もない。

掲示板の記載自体がそこで途絶していた。

プレイヤーの問い合わせも野次もふざけた○ちゃんねらーの書き込みもない。

こちらから書き込みをしようとしても反応はない。

マップやアイテム、スキルなどを見てもゲームプレイには問題がなさそうだが、ログアウトや現実世界へのアクセスができない。


「どうなってんだ…?」


掲示板以外のネットサイトも見てみようと別ウィンドウをち上げようとしたけれどもうそれらの外界の情報は見ることができなかった。

自分のステータスウィンドウは開ける。

スキルのふり直しもできる。

アイテム袋も無限ナイフもいつも通りに使える。

だが、帰ることができない。

どこに向ければいいのかわからない憤りに頭をかきむしって喚きたい気分だった。


「………ッ」


膝から力が抜けそうになってよろめく。

視界が揺らいで緑の森と細く遠くまで続く街道が滲みながら目に映る。

その端に入り込んでくる、モンスター。

ごく弱い魔物であるスライムがぶよぶよと森へ移動している。

そうだ、安全とされていたセーフティゾーンも今まで通りかわからない。

でのんびり悩んでいる訳には行かない。

幸い自分のスキルはの働きをしてくれている。

今出来る検証をするべきだろう。

己の安全のために。


俺はぶよぶよと移動していたスライムをつかみ、街道のそばに下ろす。

セーフティゾーンが有効ならばスライムは弾かれるはずだ。

少し離れてスライムの動きをじっと見つめる。

じりじりと距離が縮まり、街道にスライムが触れる。


「プキャッ」


パシッと軽い破裂音と共に弾かれるスライム。

俺は脱力感にため息をついた。

これなら村では安心して寝られるだろう。

とりあえず宿をとって室内でこれからのことをゆっくり考えようと思い、俺は重くなったように感じる足を動かし始めた。




* * *



「ようハルキ」

「ジョンさん、こんちは」


門番のジョンに挨拶して村の入り口の木のアーチを潜る。

入ってすぐはなにもない広場のようになっており、有事イベントの際にはここで青空会議となる。

小さな柵が張られた向こうにログハウスのように裸木で組まれた家がぽつぽつと並ぶ。

奥に足を進めると小さいながらメインストリートになっているマーケットが現れた。

古い看板が揺れる店を覗けば馴染みのおばちゃんの顔が見え、無意識にホッと息をつく。


「ハルちゃんいらっしゃい!」


NPCとはいえ見知った顔に頬が緩んだ。


「こんちは」

「今日は何をお買い上げだい?ゲドク解毒ポーションなんかおすすめだよ」

「あれっ?前来たときは無かったよ?」


アイテムの充実はありがたいことだが、前回ログインしたときにはなかったものがあるということに戸惑う。

たしかこの村では小体力回復の下級ポーションしかなかった。

中級や上級ポーション、特殊ポーションが欲しかったら西の大きな街へ行くか、モンスター討伐で手に入れるしかなかった。

なのに今日は入荷しているという異常事態イレギュラー

不安を押し隠して俺はそれとなく聞いてみることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る