第13話 目覚め。

ギルドで着任手続きを済ませるとさらっとマーケットの案内をして、ゲントたちとは別れた。

まあ今生の別れでもないだろう。

このままの世界で死ぬつもりはないからな。

それに、ここは俺の拠点ホームだから。

また会えるだろう。


「じゃあ俺はまた旅に出るよ」

「そうか…そういやあハルキは旅人だもんな」

「達者でな」

「うん、皆も元気で」


挨拶を交わし、村を出る前に白エルフの少女の様子を見に行ってみることにした。

医療施設はマーケットの端にあるが、医者の自宅は別にある。

森寄りにあるギルドとは反対に入り口広場に近い。

裸木を組んだ家のドアをノックするとボサボサ頭の男が出てきた。

「…あんだ、ハルキか。入れ…ん?なんだそいつ魔物か?」

「いや、獣の方。ライトだ」

「ぴ」

「ああ、よろしく。ほれさっさと入れ」


中に入ると正面の壁際に医療書の本棚があり左奥にキッチンがある。

右奥が日当たりの良いリビングで、デイベッドとテーブルをはさんでソファがあり、デイベッドには少女が横たわっていた。

魔物の体液まみれの時でも顔の作りが整っていると思ったけど、さんさんと降り注ぐ光に飾られた彼女は神々しささえかもしているようだ。

白い肌に白に近い銀の髪、長いまつげ。

色素が薄いのは白エルフのデフォルトだろうか。

サイオウのギルマスは金髪だったけど。

あ、目が開いた…薄いブルーか。

「おはよう、といっても午後だけど…気分はどう?」

「………ここ、は?妾は、確か魔物に…」


様子だけみて旅立つ予定だったが事情だけでも聞いておくか。

なにか手がかりがあれば聖獣のついでに里を探すのも良いしな。

医者のリャンも彼女の健康状態を観察しながら声をかけている。

「君はこの旅人ハルキに助けられたんだ。ここは西の端の村だ。どこか痛むところはないか?」

「…む、少し後頭部が痛い…」

「どれ、………ちょっとたんこぶができているが、恐らくそれは今朝そのベッドから一度落ちた所為だな。他には?」

ずいぶん良い寝相らしいな。

彼女はリャンの質問に首を振る。

パニックになる様子もないしリャンは目を合わせると俺にうなずいて見せたので、事情を聞いてみることにした。


「君は魔物の腹から出てきたんだけど、何があったか覚えている?」

「妾は、…かわいい獣を見つけて、撫でようとしたら…気持ちの悪い魔物に丸呑みにされて…そこからは覚えておらぬ」

同士の臭いがするな。

モフラーに悪い奴は居ないよね。

「…獣、ね。じゃあ自分の名前は?」

「…妾の名は…うー」

割りとスムーズにいきそうで良かったと思ったらそうは問屋が卸さないらしい。

眉を寄せ唸るようにして考え込んだ彼女に不安になる。

「どうしたの?」

「……………思い出せない」


考えてみれば魔物に丸呑みって相当な恐怖だ。

心因性の記憶喪失だって有り得るよな。

「リャンさん…」

「こいつあ…」

一時呆けてしまったもののリャンさんは医者としてしっかり診察する。

いくつか質問をしてみたところ、魔物に丸呑みされたときの事以外殆ど覚えていないようだ。

世間常識一般や生活に関しては問題ないという診断だった。

しかし自分の名前も、どこで生まれて何をしていたかもわからないらしい。

「見た目から白エルフだろうってのはわかるんだがなあ…」

「妾は白エルフ…なのか?」

「え?いや、見たとこそんな風、だけど…そうか、忘れてるならわかんないよね…はい」

アイテム袋から鏡を出して見せると彼女は瞬きを繰り返し耳をぴこぴこさせながら鏡に映る自分を見つめた。

「…君はどうしたい?帰りたいと思うなら探してみようと思っているんだ」

「……………」

「焦らなくても良い。しばらくはゆっくりすれば良いしこの村が気に入ったらここに住むのも良い」

彼女の気持ちが落ち着いてこれからの事を考えられるまでは村で預かるということになった。

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