第19話 エルフの唄。

一通り案内が済むと日も暮れてきてそろそろ宴の時間だと広場に戻った。

「旅人ハルキ殿と我らエルフの友情に、乾杯!」

「かんぱーい!」

思い思いに飲み物を掲げて音頭に合わせて最初の一口をお迎えする。

この世界の設定では俺も成人である。

エールビールがうんまい。

ゲームだからか体質か殆ど酔いはしなかったが。

ブロウは牛さんと羊さんと共に今日だけの飼い葉を頂いているしライトも美女エルフさんから離乳食をもらっている。

ブロウもライトも人気者だ、というか皆さんエルフももふもふがお好きなようです。

エルフポッポもとまり木からテーブルのそばへ降りて宴の食事をちまちまと啄んでいる。

俺は長老の隣でもてなされているわけだが、目の前のテーブルにご馳走が並んでいるのに更に周りからあれこれと進められ目を白黒させながらもありがたく頂いている。


ビーツやズッキーニの煮物であったり知らない葉野菜と木の実のサラダであったり様々な料理があるが、おおむねヨーロッパの田舎料理のようなものが多い。

しばらくすると目の前で大物の肉が丸焼きにされ始めた。

火種はエルフらしく火精サラマンダーである。

肉は鹿肉らしく宴直前に狩ってきたものだと若い美男子エルフがお辞儀するのに拍手を贈った。

ありがとうジビエ料理。

焼き上がった肉はそれはそれは旨かったです。

デミグラスソースとヨーグルトソースの二種の味付けも素のままでも旨かった!

最後は果実の甘いデザートまでいただき、満腹。


食べている間は雑談に興じたり、打楽器や弦楽器の音楽があったり賑やかであった。

食べ終わった今はとろりと落ち着いた雰囲気で、静かに夜のとばりにきらめく星を見上げている。

「…お気に召されたかの?」

「はい、とても美味しくいただきました。ブロウとライトも満足行くまで食べたようで」

「良うござった。では最後に我らに伝わる唄を披露つかまつる」


竪琴リラの伴奏に合わせてエルフたちが詠う。


それは太古たいこの言い伝え

昔々 人という生き物がとても少なかった頃

ここは楽園であった

獣たちのその

女神が愛する世界くに

人は獣に守られ生きていた

獣は何にも縛られず 自由だった

ある時 空は陰り 雷鳴とどろき 地は揺れる

生まれでた魔のものに 獣はほふられ 人は逃げ惑う

うれいた女神は聖獣を生み出し 獣を 人を 救いたまう

魔と聖獣の戦いしその危機に 共に立ち向かったただ一人の人があった

その者 女神のちょうを得 世界の王と成る

二人の間に生まれし子こそ 我らなりや

後に現れし 似て非なるは 女神なりや

我らエルフ 女神の子

獣を愛し 獣を守る

女神をうやまい 獣をたっとぶ…


エルフたちの唄は二度繰り返し森の中に響いた。

余韻を残して消えた和音にほう、とため息が出た。

美しいハーモニーは感嘆に値する。

拍手を贈り宴は終了となった。

笑顔を交わしながら片付けがされていき俺は端でおとなしく眺めている。

手伝おうかと言ったら客人の手を煩わすわけにはと固辞されたのだ。

エルフたちのたち働く様子と船をこぐライトを眺めながら先程の唄を思い出す。

長老の言葉と唄の内容から、スカイが女神ではないかと推測する。

ライトとブロウの世話を嬉々ききとしてやりたがるエルフたちを見て、似ているとか共通するところは確かにあると思うが…、本人の記憶がないので確かめようがない。


「ハルキ殿、いかがでしたかな?」

「…素晴らしい唄でした。それと、確かに可能性はあると」

あらかたの後始末も終わったらしく長老が近づいて問うのに俺がそう返すと満足げに頷く。

「始祖の王が女神の伴侶というのは驚きましたが」

「その通り。今の王も縁を受け継いでおるはず…」

「縁、とはどういった…」

まさか代々が女神の寵を得ているわけは無いしと問うと長老はやや顔を曇らせた。

「それは…まあ訪ねてみるとよろしい。王都の大書庫にはわしの次男が勤めておる故そちらも使ってくだされ」


場は完全に解散となりブロウは羊と牛と共に、ライトと俺はツリーハウスに入って休む。

ライトは俺の胸の上でピスピスと鼻を鳴らし寝ている。

開け放った窓からそよ風が森の香りを運ぶ。

王都の大書庫か。

次はそこに行ってみよう。

その前には確か砂漠があったな。

明日からの旅路を思い浮かべるうちに俺は眠りについていた。


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