第20話 襲撃とエルフの恩。
静寂が切り裂かれたのは黎明、夜が明ける間際だった。
音の爆発に飛び起きた俺は最低限の装備でツリーハウスから飛び降りる。
「この音…羽音、?」
「ぴい!」
寝ていたライトも目を覚ますと俺の懐に潜ったままついてくる。
置いていこうかと思って懐から出したが村に行ったときと同じようにしがみつくライトに、やはり連れていくことにした。
「ぴ…ピぃ、ぴっ!」
「ん、あっちか。行くぞ、ライト」
「ぴい!」
獣耳が音に反応して震える方へ、俺は駆け出した。
音の中心は宴に使われた広場で、何本か太い木が倒れていた。
「こいつら、ハエ…?」
宙に浮かぶ騒音の正体は
ホバリングするように高速で動く羽がけたたましい。
顔をしかめたくなる騒々しさにライトは前足で器用に耳を押さえる。
俺は開けていた胸元を上まで止めて密閉してやった。
少しでも緩和されればいいが。
急いで出てきたため装備は脚甲とめり込むサックだけだ。
さっと視認しただけで百匹程いるだろうか。
散開してエルフの家の方に行こうとする奴らに一計を案じる。
注意を集めて一気にかたをつけなければ被害が大きくなるだろう。
今持っているものでやるなら?
確か蜂蜜がほんの少しあったか。
腰のベルトについた小さなポーチから小瓶を取り出すと地面に叩きつける。
かしゃん、と軽い音をたててガラスが割れ甘い匂いが広がった。
「…?ーーー!」
声とも言えない音を出してハエたちが殺到する。
集まったこの瞬間を狙い拳にはめたサックに魔力を込めて放つ。
〈
正拳突きのごとくまっすぐにつき出した拳から腕に巻き付くように発生した炎が衝撃波と共に魔虫たちに襲いかかる。
魔虫たちは炎が触れた端から燃え上がりボタボタと落ちていった。
ぐるりと見回してみるが取り逃がした虫はいない。
胸元を緩めるとライトの頭を撫でてほっと息をつく。
「ピ、ぴぃ…!」
「あー、大丈夫だもういないだろ…と、被害は木が倒れたぐらいか?」
広場の様子を確認していると昼間遊んだ子供たちが走ってきた。
虫に追いかけられて。
「ーーー!ーー!」
「た、助けて兄ちゃん!」
頭上から襲いかかろうとするハエを振り払おうとするがしつこい奴らに元気な子供も疲れたらしく、広場の倒木の上へぶつかるようにへたり込んでしまう。
ここぞとばかりに集ってきたハエに子供は強く目を閉じた。
「っ、伏せろ!」
「うわあ!」
〈
炎熱によって焦げた虫は羽が溶けて地に落ちる。
跳躍して子供らの前に降りじたばたする虫を踏み潰して止めを刺した。
「怪我は?」
恐怖からひとかたまりにくっついた子供らはなんとか平気だと答える。
「ありがとう兄ちゃん!」
「いや、無事で良かった。他には虫を見なかったか?」
落ち着いてきたのを見て質問すると少し考えたあとはっとした様子で答える。
「…あ、何匹かあっちに行ったかも…」
「うん、メエメたちが戦ってた!」
羊のリーダー格はメエメという名らしい。
強いとはいえ十匹以上見たと言ってるし…よし。
「ここは今殲滅したばかりだから安全だ。君らはここで待ってて。俺が行ってくるよ」
「…わかった!兄ちゃん、お願いします!」
子供らの声援を受けて行ったが牛と羊の元に着く頃には殆ど狩られていました。
羊、強っ!
メエメさんは鋭い角があり、それで攻撃したようだ。
ブロウも足蹴にして止めを刺したみたいで蹄にちょっと
念のために一通りエルフの集落を見回りして何羽かエルフポッポを助けたら、太陽は上りきっていた。
「スカイ嬢だけでなくこのような事態にまで対処いただき、重ね重ねのご恩かたじけない…」
「いや、当然の事をしたまでですから…」
夜が明けきって確認したところ被害は何本かの倒木と数人の子供が逃げる最中に擦り傷を作った程度だった。
「それに対処したのは俺だけじゃないですし」
気がついたエルフも弓を手に戦っていたらしいし、羊もいたしな。
恐縮しつつ言うが長老は首を振った。
「いやいや、あの数ではハルキ殿がおらねば苦戦したはず…我ら精一杯の感謝です。どうぞお受けくだされ」
去り際進呈されたのはエルフポッポが一羽と水流のカトラスでした。
正直すごく助かるのでありがたく頂戴することに。
ありがとうございます。
また今度来たときにはゆっくりともふもふ談義したいな。
肩に乗せようとしたが頭の上に居座るエルフポッポに手を焼きつつ俺はブロウの鼻先を王都へと向け歩き出した。
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