UFOに乗る会

高級マンションの広いリビングルーム。6人の女性と、2人の男性。みんなソファーでくつろいでいる。主催者は40歳前後の女性。名前はミウという。女性は30代から40代くらいだろう。男性は俺と、中年のオヤジ。今日は「UFOに乗る会」という集まりなのだ。参加料は3万円。宇宙旅行でも1億円するというのに、UFOに乗るのに3万円は安い。俺は愛人のリナに誘われ、リナと一緒にここに来た。UFOには宇宙人もいるだろう。宇宙人に会うのも楽しみだ。いや、実にワクワクする。


部屋にはアロマがたかれ、珍妙な音楽が小さい音で流れている。マンションなのに生活感がまったくない。きっとレンタルルームだ。私はそう断定した。リナは私の隣に座っている。そろそろ定刻だ。ミウは参加者一人一人に声をかけている。これからマイクロバスで山奥にでも行くのだろう。そして、山奥にUFOがいるのだろう。私はそんなふうに想像していた。


「みなさんこんにちは、ミウです。これから皆さんとUFOに乗ります。みなさんUFOに乗るのは初めてですね?」


皆が頷く。


「これから、未知の世界に行きますが、どうぞ緊張しないで、まず深呼吸して、リラックスしてください。絨毯の上で横になってもいいですよ。さあ、では皆さん、身体を楽にして目を閉じてください」


え、目を閉じるのか。目を閉じたらUFOが見えないじゃないか。しかし、そんなことを言うと主催者に嫌われる。言えない。空気を読む日本人である以上、とても言えない。そして俺も目を閉じた。


「はい、皆さん、もうここはUFOの中ですよ。何が見えますか。窓から地球は見えますか。宇宙人は可愛いですか。宇宙人の言葉がわかりますか」


あ、なんだこれは。催眠術の一種か。リナ、帰ろう。くだらな過ぎる。俺はそう思い軽く目をあけてリナを突っついたが、リナは完全にトランス状態で気持ち良さそうだ。


俺は主催者のミウと目があったが、ミウは悠然たる笑みを浮かべている。気の弱い私は愛想笑いをして再び目を閉じた。


「さあ、自由にしていいですよ。歌っても、踊ってもいいです。はい、ここはUFOの中ですよ」


いつのまにか照明は消え、部屋は真っ暗になっている。これが「UFOに乗る会」だって。冗談ではない。3万円は返せと言いたい。しかし、俺以外は皆トランス状態を楽しんでいるようだ。よほど日常が辛い人々なのだろうか。リア充の私とは世界が違う。きっと違う。絶対に違う。


みんな暗闇の中で踊っている。歌っている人もいる。泣いている人もいる。そんな時間が40分ほど続いた。


「みなさん、宇宙人さんの言葉がわかりましたか。そろそろ宇宙に帰るそうです。私たちもUFOを降りましょう。そして、宇宙人さんに、ありがとうと言いましょう」


「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」


みんなが、ありがとうと言う。俺も、ありがとうと言う。これが空気の圧力だ。内心はとても不愉快なのだが、笑みを浮かべるのが日本の礼儀なのだ。


馬鹿馬鹿しい小説だと思わないで欲しい。これは小説ではない。本当の話だ。21世紀の日本では、こういう会が毎日のようにどこかで行われているのだ。


なに、ぜひ参加したいですと。本気なら紹介しますぜ。5万円で。

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