吾輩は犬である。
ワン。吾輩は犬である。名前は次郎だ。
犬になったのは去年の6月だ、家の中で、ワンワンワンと吠えだした。犬の霊に憑かれたのかもしれない。それから、毎日ワンワンと鳴くようになった。いつのまにか、外でも。
市役所に行って住民票の性別を男から犬に変えてもらおうとしたのだが、冗談だと思われたのか、取り合ってもらえなかった。
そこで吾輩は裁判を起こすことにした。吾輩は犬である。住民税も所得税も関係ないはずだ。私は法律事務所の弁護士を訪ねた。
「私は犬なんです」
「犬は裁判などできません」
「でも、私は犬になってしまったんです」
「なら、医者の診断書を持って来てください」
おれは病院に行った。とりあえず内科にした。
「あなたが犬ね。二足歩行してるしね。ワンと鳴くだけなのよね」
「ワン」
「4本足で走れるようになったら、また来てください」
この日から吾輩の修行が始まった。4本足で歩くことから始めた。街を歩くと皆が奇異の眼で見る。吾輩は気にせず、ワンと吠える。
時々、犬とすれ違うと興奮する。可愛いメスなら特にだ。しかし、飼い主は逃げて行く。絶叫する飼い主もいる。吾輩は野良犬なのだった。
3ケ月が経った頃、吾輩は4本足で走れるようになった。さあ、病院に行こうと思った。
「先生、4本足で走れるようになりました。ワン」
「ちょっと走って見せてくれる」
「ワン」
吾輩は診察室の中を走った。
「精神科に入院ですね」
吾輩は精神科に行った
「病名は何でしょう」
「解離性同一性障害とその周辺。統合失調圏ですね。」
「難病ですか」
「珍病です」
「保険は効きますか?」
「効きます。高額医療で返ってきます」
その日から吾輩は入院になった。病室でもワン、ワンと鳴いている。たまに、看護師さんや入院患者がふざけてワンと相手をしてくれる。もう1年が過ぎた。退院の目途は立っていない。
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