第14話 30秒

会社を解雇された。

何かをしたわけではない。

何もしなかっただけだ。


言われたことをソツなくこなし、それ以外は蛇足と考えていた。

自分を出さず、平均点をキープすればいい、そんな風に考えていた。

実際、特別なことなど出来なかったわけだし。


しばらくは職探しする気力も無かった。

ただ、なぜ自分が?という自問に答えを探していた。

あれから3ヶ月、今はFXで細々と暮らしている。

怠惰な日々を繰り返すうちに、死ぬことばかり考えていた。


FXを始めるに、携帯をスマホに変えた。

どうやら、話しかけると色々検索できるコンシェルジュのような機能があるらしい。

「Hey 今の僕に必要なアプリをダウンロードして」

「1件の無料ソフトを検索しました」

それは、『足りない能力を補います』

無料だしな、軽い気持ちでダウンロードした。

機動させると、MAP表示に切り替わる、駅前の路地、その突き当りを指している。

ここに行け、ということだろう。

どうせヒマなんだ、私は散歩がてらフラフラと外出した。

幾日ぶりだろう、外を歩くのは……夕暮れの街をブラブラと歩く。


指定された場所は、大きな洋館、こんな建物がこんなところにあったのか。

古びてはいるが、庭の手入れはされており、怪しさは感じない。

怪しいのは、表札代わりに掛けてある看板である。

『不幸な人しか読めません。呼び鈴を3回押してからお入りください』

なんのことやら、まぁその通りにすれば入ってもいいということだ。

私はちゃんと3回押して門を開けた。


綺麗な庭を横目に眺め、玄関の前に建つと玄関のドアがスッと開く

「お待ちしておりました、どうぞ、あるじがお待ちです」

老紳士が深々と会釈しながら待っていた。


外観よりも屋敷は広く感じた。

ホールを抜け、中央の階段を上がり、右手の奥の部屋へ通される。


部屋の中央にあるじおぼしき中年男性が立っていた。

「ようこそ、不幸を背負いしヒト」

大袈裟に両手を広げて挨拶される。

その姿は、インチキ奇術師のようであった。


「で、どうしてここに来たのかね?」

「いや、アプリで……」

私は解雇されたくだりから主に話した。

「なるほど、大した才能にも恵まれず、努力もせずに生きてきて、転職を繰り返して無気力ゆえに解雇され、楽して生きたいとFXに手をだして、預金残高食われまくり、死にたいけども勇気もないからダラダラ生きてるというわけですね」


ムッとしたけど、その通りだった。


「いいでしょう、何がいいかな~」

主は子供のような口調で首を傾げながら考え始めた。

「うん、FXならどうですか、未来を見る目なんて欲しくないですか」

「ははっ、あったらいいですね、そんな能力」

「そうでしょう、差し上げますよ、その目をね」

何を言ってんだコイツ?

「そうですね、対価は……目玉2個だから……30年でいいかな?」

「何を言ってんですか?対価ってナニ?」


主の説明によると……。

30秒先が見える右目と30秒前が見える左目、これはSETだそうで、単品販売できないらしい。

代金はお金ではなく、『時間』寿命と置き換えてもいい。

取引成立事に残りの寿命は教えてもらえるらしい。

返品は不可。

こんなところだ。


少し考えたがOKした。

なぜかって?

主が、この世に生きる化け物だったからだ。

もう何百年生きてるか解らないそうだが、気づいたらココに居たそうだ。

屋敷を出ることもなく、時間から取り残される存在。

同じ時間軸に居ないとのことだが、貰った時間分は生きながらえるそうだ。

その証拠だと言って壁に掛けてあるショートソードで首を跳ねるように言って私に剣を渡した、雰囲気に呑まれて差し出した頭に、思わず振り下ろしたが、クビが落ちるどころか、まったくキズが付かなかった。


思ったんだ、NOは言えないのだと。


それからは、毎日楽しかった、能力は本物だ。

右目だけで画面を見ると30秒後のチャートが見える、LかSか選んで決済すればいい。

30秒ごとに倍々に膨れる資金、アッと言う間に億を超えた。

10億超えた頃、FXを辞めた、必要なくなった。

マンションも、車も、現金で買った。

毎日、違う女を抱いた。


左目には用事が無かった。

両目で見ている時は、±0の現在片目を閉じると能力が発動する。

本人の意思は無関係だ。

30秒前の映像なんて興味もない。

コンビニで30秒前に誰が買い物していたか?なんて興味がないだろ?


FXをやめても未来は面白かった、癖のように未来を見続けた。

「キミは次にこう言うんだよ」

「なんで解ったの?」

なんて具合で左目を閉じるのが習慣のようになっていた。


ある日、顔に違和感を覚えた、突っ張る様な痙攣するような違和感、医者に行くと顔面麻痺。

私の右側の顔は数日で硬直した、もはや右目を開けることも出来ない。

見えるのは30秒前の風景。

他人の話はリアルタイムで聴こえるのに、映像が遅れてやってくる。

金はあるんだ、治療に専念すればきっと……。

緩和と進行を遅らせることは出来る、完治しない。

薬が切れれば、すぐに右目が閉じる。


あれ、私は後、何年生きれるのだっけ?

えっ?今、私はいくつになった?

あれ?あれ?


月日は流れた……。

私は左目だけで過去を見続けている。

耳では現在を感じながら。

あれから、事故に遭った、植物状態のまま病院で過ごしている。

金だけは有った、それが災いした。

生き永らえているのだ、入院費以外の金はいいように使われている。

両親も親戚も皆、豊かになった。

相続税なんて払うより、浪費して使い切ったほうがいい。


私は今も生きている、精神は身体に留まるのだろうか?

過去を見るだけの存在、死んだときは、どう映るんだろう……。

もうすぐ、その時は来ると思う。

私が、その時を見るのは、30秒後だが。

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