第24話 夢

 立派な旅館に泊まっていた。

 高校時代の友人と2人。

 大型のバスが停車し大勢の喪服の集団が降りてきた。

 そのうちの1人、30代半ばと思しき女性が僕に声をかけた。

「〇〇くん、久しぶりね、先生の事覚えてる?」

 記憶を辿るも彼女のことは思い出せない。

 本人曰く、中学生のときに教育実習生として赴任したことがあり、僕のことはよく覚えているとのことだった。

 同じ旅館に泊まり、翌朝、彼女と2人で夏の海岸で砂浜を歩いた。

「正直言いますと…僕はあなたの事を覚えてないんです」

「そう…でもいいの…用があるのはキミじゃないから」


 翌日、僕は友人とロビーにいた。

 すると、喪服の集団も帰るようでゾロゾロと旅館を後にしバスに乗り込む。

 当然、彼女の姿もあった。


 遅れて出てきた喪服の男性が2人

「こんな旅館を相続したって…借金の分配だって皆、解っているのか?」

「さぁ…経営状態は解らないんだろ? 金目のものだけ回収したら相続は放棄すればいい…気づかれないうちにな」

 そんな会話をしながらバスに乗り込んだ。


 隣では苦々しい顔をした女将がバスを見送る。

 突然、天気が崩れ、嵐になった。

 僕は友人に車を回してくれと頼むと女将がニコッと笑いながら

「すぐ収まりますよ…呪われるのは、あの人たちですから」

 友人は雨の中、車を取りに走った。

「あらあら…可哀そうに…あの人もなのね…」

 女将は旅館に戻った。


 嵐の中しばらく林道を走る。

 紅葉した木々は絵画のようで美しく見ていて飽きない。

「やっぱり…俺なんだ…」

 運転していた友人が絶望したように呟いた。

 目の前には朽ちた柵で囲まれた廃村。

 突然、彼のスマホが鳴る。

 僕は嫌な予感がして彼に「出るな」と言いかけたのだが間に合わなかった。

 スマホから男の声がする。

「待ってたよ…おかえり」


 僕は彼に車を止めるよう怒鳴る。

 彼は逆にアクセルを踏み込んだ。

 車は柵を壊して朽ちた家が無数に並ぶ村に突っ込んだ。

 フラフラと車に近づく喪服の男女を跳ねながら彼はアクセルを踏み続けた。

 反対側の柵が見えた頃、僕は、この村を抜ければ助かるのだと確信していた。

「急げ‼ 出れなくなるぞ」

 そう止まれば、この村から出られない。

 僕は、そう思っていた。

「ダメだった…」

 友人はアクセルを弱める。

 目の前には彼女が立っていた。

「アンタの父親が…融資を…」

 そう叫んで彼女は長い棒を構えて車に突っ込んできた。

 棒はフロントガラスを突き破り友人の顔を貫いた。


「逃げなければ」

 僕は助手席から降りようとするがz、すでに車の周りはゾンビような喪服の集団に囲まれている。

「○○くん…ゴメンね…」

 彼女は割れたフロントガラスの向こうでニタニタと笑っていた。

 それでも降りようと僕は助手席のドアを足で蹴った。

 ズキッ…

 背中に痛みが走った。

 振り返ると棒が突き刺さったままの友人の手が僕の背中に手をかける。

 僕は彼に尋ねた。

「オマエの親父…役所勤めだったっけ?」

「いや…銀行…」

 潰れた顔が答える。


「そういうことか…」

 僕の背中に再び痛みが走った。

 友人の手が僕を逃がすまいと抑え込もうとしている。


「なんで…俺だったんだ?」

 僕はそこで目が覚めた。


 隣では友人が、まだ寝ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る