ヤミナベ

桜雪

第1話 特殊保険

「いやぁ~、このあたりはいいですよ、新興住宅地で、まだ開発途中ですけどね、

ほら、あそこの山もね、切り崩して広がりますよ。投機目的の買いも出てますから」

私たち夫婦は、思い切って、この地に住居を構えることを決めた。

いざ、購入となると、毎日、毎日、銀行やら税理士やらが書類を持ってやってくる。

私は辟易へきえきしていたのだ。

そんなとき、保険屋がやってきた。

災害保険には、もちろん入ったが、保険屋は別の保険も薦めてきた。

「で、怪獣保険はどうされますか?」

りますかね~」

「最近は一時期より被害も減ってますが、無いとも言えませんからね」

「う~ん」

「あそこの山も削るんでしょ、出てこないとも言えないですから」

「一番安い保険に入っておきますよ」

「そうですか、安心を買うということで」


家も建ち、数か月、妻とも仲良く、近所付き合いも問題なく仕事も順調であった。

(幸せだ)

それは、空から降ってきた。

宇宙怪獣ナニガシだ。

ニュータウンは被害甚大であった。

我が家も、もちろん全壊である。

何日かを仮設住居で過ごし、落ち着いた頃、保険屋に電話をした。

保険屋は、調査員を連れて来た。

「保険でるんですよね。全壊ですよね」

「大変、申し上げにくいのですが、全壊以前に適用外なんですよ」

「適用外ってなんですか?」

「いや、保険の対象外なんですよ、は……」

「はっ?」

保険屋の説明では、私が入っていた怪獣保険は、地球原産種に限るという一文が入っていたのだ。

「お力になれずに申し訳ない」

頭を何度も下げ、保険屋は帰って行った。


妻と、しばらくは会話もない日が続いた。

しかし、いつまでもこうしてはいられない。

私は、妻と相談し、もう一度お金を借り、ここで生活しようということになった。

瓦礫の撤去費用は国が負担してくれた。


以前より一回り小さい家。

私たちの新たな門出である。

保険も、今度はグレードをあげ、地球・宇宙両方の怪獣に適応する保険に入った。


土地の価値は大分下がった、しかしながら下がった効果でポツポツと住民が増え、

ショッピングセンターも出来て、街は賑わっていった。

(良かった、ローンの返済は楽ではないが、幸せだ)

それは、山に埋まっていた。

地球原産種怪獣ソレガシだ。


私は妻とシェルターへ逃げた。

シェルターのモニターには、街が破壊される映像が流れる。

ざわつくシェルター内に、放送が流れた。

「住民の皆様、現在地球防衛軍が、この街での殲滅行動準備中です。

殲滅行動にあたり、この街は防衛軍作戦要地指定されます。

殲滅行動による被害は、すべて防衛軍予算より保障されますので

ご安心ください」


(やった。保険も下りるし、保証金もでる)

私は、妻を抱きしめた。


そのときである、ナニヤラマンが飛来した。

映像はそこで途切れた……。

……3分後、シェルターが外側から開いた。

警報解除である。


家に急いだ。

家は跡形もなく踏みつぶされていた。

(よしっ全壊だ~)


仮設住宅で過ごしていると、説明会の案内が届いた。

説明会に出向き、説明を聞くと、

今回の防衛軍保証金はでないとのことであった。

防衛軍の説明によると、街への侵入前に、ナニヤラマンが怪獣と格闘を始めてしまい、防衛軍も撤退したらしい。

つまり、1発のミサイルも撃ってないので金を出す必要はない、ということだ。


落胆する住民であったが、まぁ保険が下りるのだから、それだけでもいい。

私たちは保険屋に電話した。

保険屋は調査員とやってきた。

「保険でるんですよね。全壊ですよね」

「大変、申し上げにくいのですが、全壊以前に適用外なんですよ」

「適用外ってなんですか?」

「いや、保険の対象外なんですよ、は……」

「はっ?」

「いや、怪獣が踏んでれば適用です。しかし、この足跡は、ナニヤラマンの

でしょ」

保険屋の説明では、地球外惑星生命体保険という別プランに入っていれば、適用なのだそうだ。


私は妻と、夕日を眺めていた。

いつまでも、いつまでも……。

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