第5話 噂屋 裏

「お姉ちゃん、アタシ彼氏できたんだよ」

沙織の部屋に嬉しそうに、入ってきた美樹。

「へぇ、よかったじゃない、カッコいい人なの?」

「うん、学校で1番人気のイ・ケ・メ・ンなんだ」

「えぇ~、美樹の、ひいき目じゃないの?」

沙織と違い、美樹は御世辞にも美人とはいえない。

ぽちゃっりという枠を超えた容姿で、校内一のイケメンゲットとは、

にわかに信じられなかった。

「ねぇ今度デートするんだけど、化粧教えてよ~」

「う~ん、考えとくわ」

「ケチ!」

考えとくわ、の考えるべきこととは、あの顔をどうしたら可愛らしく化けさせられるか?ということである。

なかなかの難題と思えた。

「ホントの話なの?校内一のイケメンをどうして付き合うことになったの?」

「・・・・・・ソレ聞かれるとな・・・・・・答えなきゃならないんだよね」

「はっ、いいじゃない聞かせてよ」

「うん・・・・・・実はね・・・・・・」

美樹は噂屋の話を聞かせた。

「ばかばかしい、都市伝説ってヤツ?」

「ホントなんだよ、現に付き合ってるし」

と二人のキスしている自撮り写真を見せる美樹。

「ふ~ん、私もお願いしようかな?」

「あっ、じゃあルール教えてあげるね」

「ルール?」

「そう、これを破ると、しっぺ返しが来るんだよ」


ルールは簡単であった。

1.ひとりで会いに行くこと。

2.本当のことを言ってはならない、噂は必ずウソであること。

3.一度依頼した噂は消せない。

4.依頼人が、噂の真偽を聞かれたら、自分がウソを広めたと認めること。

5.ウソを認めなければ、騙された人数、期間に応じた不幸を黒猫が運んでくる。


つまり、美樹は今、沙織に真偽を問われたから、ウソを広めたのは自分だと認め、噂屋の話をしているということになる。


週末、沙織は噂屋に依頼してみた。

こうして、数日後、告白も何もないままで、社内では沙織は、村山主任の彼女ということになっていたのである。

その後、彼女から婚約者に噂は広まって行った。


寿退社、間際のある日、佐藤が声を掛けてきた。

チビハゲで嫌われ者の佐藤は沙織に

「村山君とは、いつからの付き合いなんだい?」

「えっ、なんですか突然」

「いや、部長から頼まれてたんだ、君たちのスピーチするだろ部長」

「あ~・・・・・・」

困った・・・・・・。

しかし、ウソをつけば、どうなるのか、今更、後には引けない。

沙織は、佐藤に噂屋の話をしたのである。


「本当に?いや信じられないな~」

「ホントなんですよ、妹も彼氏できたし」


翌日、佐藤は噂屋を訪ねたのである。

ほどなく、佐藤はアラサーと付き合っていることになるのであるが、

佐藤は既婚者である。

人事部からの追及を受けるハメになるのは時間の問題である。

佐藤は、ルールを破って、依頼の取り消しを頼んだ。

アラサーが佐藤を見た、あの日である。


――沙織の結婚式


佐藤の姿は無かった、彼は会社の風紀を乱したとして、懲戒処分で謹慎の後、辞表を提出。

小さい会社であったがゆえか、しっぺ返しも失職止まりであったようだ。


結婚式は進む。

「では、ここで、新郎から、お二人の馴れ初めをお話しいただきたいと思います」

拍手のあと、照れながら・・・・・・。

「沙織とは・・・・・・沙織とは・・・・・・???どうして付き合ったんだっけ?」

沙織の顔を不思議そうに見る新郎。

「えっ、あぁでは、新婦さまからお話しいただきましょう」

「え~と・・・・・・」

「お二人のお付き合いを簡単にでいいんですけど・・・・・・」

司会も、どうにか時間を繋がなければと必死である。

悪意のない、追及は続く。

(話せないよ・・・・・・こんなに広がっちゃった噂のしっぺ返しって、どんだけのモノなのよ・・・・・・話せないのよ)


アラサーは、シャンパンをグィッと飲み干し

(ざまあみろ)

と腹で、せせら笑っていた。


昇進絶たれたアラサーは、来週、退職予定である。

違う土地でやり直すのだ、自分の噂がない土地で。


あの後、アラサーは老婆に依頼したのである。

「佐藤は沙織と付き合っていたの」

「結婚式で、佐藤が沙織をさらって逃げるのよ」

「そうなんですか?佐藤は、付き合っていた沙織を、式場から連れ出すのね」

老婆はニコニコと答えた。


式場の窓には、チラリと見える脂ぎったハゲ頭。


「私たちの馴れ初めは、彼が・・・・・・私に・・・・・・付き合ってほしいって、歓迎会の後に・・・・・・かな、だったかな」


ニャーッ、沙織の後ろで、黒猫が鳴いた・・・・・・。

それが合図だったかのように、佐藤がドアから走り込む。

佐藤は沙織の手を掴んで、ドスドスと外へ駈け出していった。


その後、二人がどうなったか?誰も知らない・・・・・・。

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