第7話 不法投棄

片付かない……。

部屋がまったく片づけられない……。

明日、彼氏が部屋にくるのに、会社では潔癖症で通っている私は困っていた。

(はぁ~料理得意?物は置かない主義?なぜ、こんなキャラを気取ってしまったのだ)

後悔しかない。

料理できない。

捨てられない。


ソファには、恥ずかしながらブラジャーが脱ぎっぱなし、サイズAcupなのが空しさをマシマシしてくる深夜2時。


とりあえず風呂に入ろうと服を脱ぎ、またポイッとソファに投げるあたりが性格を表している。

風呂には、色とりどりのショーツが洗面器に浸かりっぱなし、クロッチ部分に漂白剤をかけて浸けたものだから、もはや色落ちして全体的に何色?って淡い色彩になってしまった。


しかし困った。

ホントに困っていたのだ私は。


髪も乾かさず、ベランダでタバコを吹かす。

独身、アラサー、喫煙者。

彼氏ができて舞い上がっちゃった。

舞い上がっちゃって、いい女気取って、こじらせて、今、後悔真っ最中。

(明日、世界が終っていい……)

真剣に考えてしまった。


目の前に大きな月。

(アレ涙でかすんで見えないよ。大きな、大きな、緑色の月)

…………………?

(緑の月?)

手の甲で涙を拭って、目の前でピントを合わす。

緑の月ではない。

緑のナニカだ。

ボワッと光る緑の輪っか?

(なんだコレ)

よせばいいのに、手を伸ばす。

蛍光灯のような輪っかをグイッと掴み振り回してみた。

「止めてもらえますか」

「おおっ!」

思わず、手を離した。

「ちょっと上がらせてもらいますよ」

緑の輪っかは、ベランダから室内へフヨフヨ入って行った。

なぜか私がお邪魔しま~すって感じでリビングへ、スコスコと移動する。

「散らかってますね」

「すいません」

「もしかして、掃除してました?」

大量の服の上に大きなゴミ袋が何枚も置いてある。

「はい」

「捨てられない派でしょうね」

「はい」

「ここで会ったもなにかの縁、お手伝いしましょうか?」

「マジで?」

「マジで!」

初対面の緑の輪っかに部屋片付けを手伝ってもらえるなんて。

「とりあえず要らないモノこの輪っかの中心に投げ込んでもらえますか」

「はい♪」

ポイポイポイポイ、ポイポイポイポイ、ポイポイポイポイ。

投げ込む、投げ込む、スッと消える、消える。

(楽しい♪)


あっという間に、ゴミが消えた。

次は要らない服というか、洗ってない下着をポイッと捨てる。

ゴミは無くなったが、部屋は汚れたままで、なんとなく薄汚い。

「あの~、なんとかキレイになりませんかね?」

もはや何でもありである。

「まぁ、やりますか、ついでですし」

緑の光がマシマシにグワッと輝く、目を開けていられない。

(くーっ、眩しい)

恐る恐る目を開けると、なんということでしょう!

壁紙は白く輝き、床はピカピカ、家具も新品、風呂もトイレもショールームのよう。

「完璧だわ~」

「こんなもんでしょうか?」

「はい」

「では、本題に入りましょうか」

「はい?」

「この星は、近い将来壊れます」

「近い将来壊れる?いつごろでしょうか?」

「6000年ほど先です」

「あ~大丈夫です。私、間違っても生きてませんから」

「そうですか、そうなる前に資源なり、文化なりを回収しようと思いまして」

「あ~それで、そんなポイポイ機能が付いてるんですか」

「えぇ、遠隔操作で回収箱の入口だけ送ってるわけでして」

「あぁあぁはいはい、なるほどコレで生物はないな~って思ってました」

「そうですか……いやいいんですが、本題なんですが」

「はい、回収を手伝っていただきたいのです」

「ゴミを入れればいいんですね」

「違います。あなたの下着など要りません」

「そうですか?中には欲しいという趣向の方とか、いませんかね?」

「…………いません」

(間が意味深)

「何が欲しいんですか?」

「資源・文化です」

「資源……文化……」

「そうです、ソレを回収したいのです」

「そう言われても、一緒に歩いたら目立ちそうだし……お店でポイポイしたら万引きだし、困るなぁ」

「ポイポイしなくて結構です。コレを使ってください」

緑の輪っかから、鏡張りのボールがゴトンと落ちた。

「なんですか・このミラーボール、踊れとでも」

「そのボールはスイッチを押してから1分間、写ったモノをすべて回収します」

「回収?吸い込む的な感じですか?」

「試してみましょう」

輪っかと私は公園のトイレに移動した。

「いいですか?まずボタンを押して、押したらこの個室から出てください」

「はい」

ポチッ。

キューンキューンキューン…………。

「離れて!」

「はい!」

私は走って、公園の隅へ移動した。

ボシュッと変な音がして1分後、トイレは消えた。

ゴトンと宙からボールが落ちた。


「スゴイ……」

「こんな感じで、適当に回収お願いできませんか?」

「でも~、消えちゃうんでしょ?」

「消えます」

「怒られそうだな~」

「嫌なら、部屋に先ほどのゴミをぶちまけますが、もちろんパンツも」

「えっ!…………解りました」

「そうですか!快く引き受けてくれてよかった、ではお願いしますよ」

「あっ!ちょっと」

ヒュッと輪っかは消えた。

私の手にミラーボールを残して。


部屋に戻ると、綺麗なお部屋。

(まぁ明日のデートは大丈夫だ、料理はごまかそう、お惣菜で♪)


デートは問題なく終わった。

彼氏の腕枕で目覚める朝は最高だ。

(ま・ん・ぞ・く)


さて、問題は鏡台に置かれたミラーボールである。

これはゴミ箱とは威力が違う、1分でトイレを消す代物だ。

土木業者も真っ青である。

(どうしたものか)

窓から1部更地となった公園を眺めながら考えた。

(資源とかいってもなぁ~スケールがデカいよなぁ~)

「おはよ」

後ろから抱きしめられる、思わず彼の腕に頬ずりしちゃう♪

「なにこれ?」

彼はヒョイとミラーボールを取り上げて、ポチッとボタンを押しちゃった。

キューンキューンキューン…………。

(やばい!)

反射的にミラーボールを取り上げて、ベッドに投げトイレに逃げた。


ボシュッと変な音がして1分後、部屋の1部が消えた。

ゴトンと宙からボールが落ちた。

トイレから出るとベッドが無い、窓が無い、カーテンも無い、鏡台も無い。

なによりも彼がいない。

(あぁ~やっちまったよ~アテクシったら)

「どうしよう……」

涙もでない。

窓がないから風が入ってきて寒い。

「こんなモノ!」

ミラーボールを壁に叩きつけた。

ポチッ。

(えっ?)

キューンキューンキューン…………。

(もうダメだ!)

私は下着姿で部屋を飛び出した。


1分後、部屋が消えた。

床が消えたので、階下へ落ちたミラーボールは転がってポチッ、キューン、ボシュを運悪く何度か繰り返した。

数分後、マンション1棟を崩壊させて、ようやく止まったのである。


その後は大騒ぎである。

警察、TV、エトセトラ。

謎の怪奇現象だ、無理もない。

私は避難所で1夜を明かした。

騒ぎが大きくなったことで、などという概念を持つ人は居なかった。

私の手にはミラーボール。

思わず回収しちゃったコイツをどうしたものか?――。


――3週間後、私は世界1周旅行に参加していた。

ミラーボールを、どこぞの海に捨てるのだ。

名案である。


豪華客船から海へポイッ。


――数年後

世界中で海抜が下がっているらしい。

私の頭を過ることがある。

もし、魚かなんかがポチッとしたら……。

海水が無くなって、海底が無くなって、マグマが無くなって、内側から地球が徐々に無くなって……グシャッとか。

輪っか曰く、6000年後までは地球は壊れないのだから、

逆に考えれば、グシャッまで6000年掛かるってことじゃない。


(大丈夫、その頃、私は生きてない♪)

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