第3話 Man in The Mirror

ワタシは思った。

(もう殺すしかない)


僕は、アルバイトを引き受けた。

失業して金が無かった。

鬱病と診断されて、1年、解雇され病状は悪化した。

(死にたい、死にたい、死にたい……)

金が無い……僕は、危険なアルバイトに手をだした。


簡単ではあった。

警察官を後ろから殴り、動かなくなったら拳銃を盗む。

盗んだ拳銃を、指定された駅のコインロッカーにしまい、

指定されたアパートの郵便受けに入れる。

それだけだ。


郵便受けに鍵を落とす、カシャンという音で、なんだかほっとした。

部屋に戻ると、洗面台で顔を洗う、鏡の中には僕の顔。

精気の無い、負け犬の顔。

狭いアパートで、丸まって眠る。


私は、気の弱そうな男に、小金をチラつかせた。

ヤバイ仕事を頼んだのだ。

ターゲットの女の身辺調査を終え、あとは始末するだけだ。

私は依頼を請けるのだけの仲介人だ。

青白い顔の男に、写真の女を殺してほしいと頼まれた。

それだけのこと。

私は、ロッカーに、女の写真とレポートを置いて、

部屋に戻った。

なんだか酷く疲れている。

何日も眠れてないような気がする。

殺しの仲介は気疲れするものだ。


俺が、郵便受けを覗くと、鍵が入っていた。

依頼だ。

俺は、あの駅のコインロッカーに向かう。

ロッカーの中には、リボルバーと写真、そしてレポートが入っていた。

(殺せということか)

アパートへ戻り、レポートを読み込む。

読み終えたレポートは、灰皿で燃やした。

タバコを吸いながら、終末を待てばいい。

殺るのは週末だ。


私は、コインロッカーに、金と手鏡を置いた。

(これで、仕事は終わりだ)


俺は、週末、女の家に向かった。

呼び鈴を鳴らすと、女が顔をだす。

俺は、拳銃を喉元に突き付け、家の中へ入る。

(この女のせいで……)

俺は、リボルバーを全弾、ぶち込んだ。

両足を撃ち、両腕を撃ち、しばらく、眺めていた。

何事かわめいていたが、それが面白かった。

涙を流しながら、血だらけの手足で、もがく姿は本当に面白かった。

俺は、最後の1発を、焦らすだけ焦らして、頭部へぶち込んだ。


コインロッカーを開けると、金と手鏡が置いてある。

金をポケットにねじ込み、手鏡を覗く。

男の写真が張ってある。

写真を剥がしてうつるのは、

俺の顔……。


俺は手鏡を地面に叩きつけた。

足にズキッと痛みが走るまで、何度も踏みつけた。


アパートへ戻り、タバコに火をつける。


ドンドンドン。

ドアを叩く音。

「誰ですか?」

「夜分すいません、○○署の者ですが、5日前の拳銃強奪事件の件でお伺いしたいことがあるんです、開けていただけませんか?」


俺は、カーテンの隙間から外を覗った、刑事と思しき男が2人いる。


洗面台へ向かう。

鏡にうつるのは、精気のない、負け犬の顔、写真の顔、手鏡にうつる俺の顔、青白いワタシの顔…………。


そうだ、ワタシは、あのおつぼねに逆らって、会社を追われたのだ。

ずっと殺したかった、ワタシは、鏡の自分に依頼した。

「あの女を殺してくれ」

依頼された私は、僕に拳銃を盗ませた。

私は俺に殺しを委託した。


私は、全部知っていた。

(ワタシ……私……僕……俺……誰?)

上着から拳銃を抜いて、こめかみに当てて引き金を弾く。

ガチンと音がするだけ

(あぁ、全部撃っちゃったんだ)


ワタシは、部屋の真ん中で、クビを吊る準備をはじめた。


どっちが早いかな?

刑事が踏み込むのと、ワタシがクビを吊るのと。

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