第15話 Time is Money

「栄養ドリンク1本で1になります」


世界から通貨が無くなった、代わりに寿命が使われることになった。

産まれた時に50年分、1576800000秒 これが生涯で使える通過だ。

使い切る前に死んだ場合は、残った時間は遺族に分配される。

使い切れば、カウンターから安楽死できる薬物が注入され息を引き取ることになる。


増やすことも出来る。

労働には、対価として支払われるのだ、基本的には通貨と変わりない。


なぜ、こんなシステムを先進国が採用したのか?

長寿が仇になったのだ。

人口増加、高齢化が連鎖的に引き起こす食糧問題、医療問題、表向きには言えないわけだが、要するに金が掛かる老人を間引きたいということだ。


金のあるもの、権力があるもの以外は、長生きをすることが出来ないのである。

実際、平均寿命は40歳を切るレベルまで調整されてきた。


俺は恵まれている。

産まれた時からの時間富豪の御曹司、今日も1年分の時間で車を買った。

一泊5日分の高級ホテルに泊まり、一人2日分の娼婦を何人も連れ込む。

風呂には、1本5時間分のシャンパンで満たす。


この世界では、時間の無いものは刹那的な生き方をする。

多少の贅沢をして、死んでいくのだ。

ある意味、幸せではないだろうか?

老いる必要はなく、時間の許す限りの生活の保障もされている。

若いうちなら病気になるものも少ない、高額な治療費も必要ない。

少し働いて、30過ぎくらいで安楽死と思えば、それなりの満足感を持って死んでいけるのだ。


他人の時間を奪えないので、殺人も極端に少ない。

殺人は身内の犯行と相場は決まっている。


平和な世界だ……本当に?


文明は発達しない。

文化もない。


少しずつではあるが、確実に衰退している。

物価は上昇している。


いつかは崩壊するシステムなのだ。

生産性の乏しい社会の行きつく先は……。


出生率も落ちている。

当然だ、子孫を残す意味がないのだ。

出産にも時間を払うのだから。


緩やかな衰退、ぬるま湯のような心地よい堕落。

今は使い切れない時間を持て余している。

しかし、いつかは時間を使うモノが無くなる日が来るのだ。


広いベッドの真ん中で、何人もの女が俺の身体に舌を這わす。

女と繋がっていると境目が解らなくなる。

どこまでが俺で、どこからお前なんだ?


女が口移しでシャンパンを流し込む……先週より薄くなったような気がする。


怠惰で淫靡な時間のなかで、俺は狂っていく。

いや狂っているのは時間のほうか?


壁の時計がときを刻む、クルクルくるくる 狂狂狂狂くるくるくるくる

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