第8話

「お茶を……、飲もうよ。」



忘れられていたのも気にせず、お茶を差し出す眠りネズミ。

アリスは受け取った。



「……ありがとう。」



その言葉でさえ、口にしたことがなかった。

眠りネズミはにっこり笑うとまた眠りについた。



「こいつ、いつも結局飲まないのな。」


「大半寝てるんだから仕方ない。」


「……美味しい。」



また、アリスの瞳から涙が零れる。

食べ物さえも味がわからなくなっていたアリス。

自分でもビックリしていた。



「アリス?泣かないで?」


「違うの。何だか温かくて……。」



ぶっきらぼうで優しい帽子屋、軽いけれど優しい三月ウサギ、何も言わないけれどタイミング良くお茶をくれた眠りネズミ。

何故だかほっとする、温かい感情。

もっと知りたいと思う自分がいた。



「あの……、教えてくれて……、ありがとう。」



帽子屋がものも言わずに近づく。



「……おまえが忘れていることがある。俺たちが男だってことだ。」



そういうと強引にキスをした。(ああああ。)



「な、なにするのよ!」


「そんな可愛い顔で言うからだ。」



初めて笑う帽子屋。赤くなるアリス。



「ずるいー!美味しいとこ持ってかないでよ!」



そういって三月ウサギはアリスの不意をうち、腰に手を回す。(おおい!)



「……俺たち、みんな君が好きだから本音言っても警戒しなきゃ、ね?……食べちゃうよ?」



そういうと優しくキスをした。(おまえもか!)



「あああ!もう!」



顔を真っ赤にするアリス。

そこにのっそり現れる眠りネズミ。



「……お姉ちゃん、ちゅー。」



アリスの腕をつかみ、頬にふんわりキスをする。



「な、な……、なんなのよ!もう!」



アリスはまた宛もなく、走り出した。



「……でも、ありがとう。」



もう、好きだと言われることに嫌悪感は無くなっていた。

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