第11話

アリスはひた走った。

最初からどこを走っているかわからない。






「あら、アリスだわ!」



何処からともなく声がする。

アリスは立ち止まる。

息を切らせながら、目で探してしまう。



「だ、誰?」


「ここだよ、アリス。」



目の前からまた違う声がする。

アリスは目を丸くする。

それはイビルフラワー。

花の軸が体の上半身になっていた。

それは様々な花の妖精。男性も女性もいる。



「アリス、お話ししましょ?」


「俺たち、アリスをずっと待っていたんだ。」


「アリス、ああアリス!」


「ずっとここにいなよ。アリス。」


「あなたを怖がらせる人なんていないのよ?」


「ずっと楽しく話してようよ!」


「ああ!なんて可愛らしいの!」


「大好きだよ!アリス!」



口々に話す妖精たち。

アリスは戸惑い、返事に困る。

見目麗しい妖精たち。

アリスを誉め続けるであろう妖精たち。

それでいいのだろうか。



「……もてはやされるなんてなかったから、嬉しい。だけど、やっぱり私はそれだけじゃダメなんだと思うわ。」



「まぁ、なんていい子なの!」


「アリスはやっぱりしっかりしてるなぁ。」


「私はアリスと話せて幸せよ。」



それでもアリスを誉め続ける。

嬉しいけどなんだか違う。



「そうじゃないの……。嬉しいけど違う……。」



これでは会話でも一方的。

ちゃんとした対話がしたい。

しかし、妖精たちには伝わらない。

ただアリスが好きだからお話がしたい、ずっと。

その想いしかないのだから。



そんなアリスの前に、野良作業でもしていたかのような、土まみれの男性が現れた。

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