第9話

アリスはひたすら走った。

何故だろう。温かくて恥ずかしくて……。

ずっと走っていたい気分だった。

けれど、そこまで体力があるわけではなく、流石に息が切れて座り込んでしまった。



「はぁっはぁっ!わ、わからないけど、何か温かい……。」




「どうされました?お疲れなようですね?」



優しい気遣いのある声が上からした。

顔をあげるとトランプのエース模様のある甲冑を着た男性が心配そうに見ていた。



「もしご迷惑でなかったら、私の宿舎が近くにありますので休まれますか?あ、いえ!やましい事などはないんです!」



顔を赤くしながら必死に話すトランプ兵士。

そんな彼にアリスは少し笑う。



「……お気遣いありがとうございます。少し……、喉が乾いちゃいました。」



微笑むアリス。人の言葉がこんなにも心地好くなるとは……。

お言葉に甘えてお邪魔することにした。






そこは最低限のものしかなく、逆に落ち着けた。



「冷えたものがいいですよね?アイスティーをどうぞ。」


「ありがとう……、ございます。」



アリスはまた、メアリーアンを思い出していた。

彼女はいつも優しかった。

何故、理由を聞きもしなかったのか。

きっと彼らと同じ優しさで接してくれていたはずなのに。

受け入れる勇気がなかった自分が悔しかった、哀しかった。

次に会うときは最初に『ごめんなさい』と『いつもありがとう』、そう言おうと決めた……。



「……アリス、先に謝っておきます。申し訳ありません。」



そういうとアリス近づき、目蓋にキスをした。(ああ!)

いつのまにか涙が出ていたらしく、それをキスで拭ったようだった。(がぅ…。)



「あ、う……。」



戸惑ってしまうアリス。

それと同時に外でけたたましいヒールの音がした。

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