第17話 ヒーローの人7
わたしの朝は早いです。お日様がお顔を出してすぐにわたしはコドラさんのところへ行きました。だって、コドラさんと冒険ができると思ったら、楽しみでぜんぜんねむれなかったのです。
でも、わたしはねむたいというのがあまりよく分からないので、寝なくても全然平気なんです。だから今日も元気いっぱいです。
「おはようございます!」
外の小屋の中で、コドラさんはグーグー寝ていました。
わたしがあいさつをしても、起きるようすがありません。
ゆさぶっても、ペチペチたたいても、全然ダメでした。
「むむむ、こうなったら…………」
わたしは小屋のおくにある部屋から、小さめのカボチャを持ってきました。小さめでも十分大きいので、わたしは左によろよろ右によろよろしてしまいます。
やっとの思いでコドラさんの前に運び終わると、コドラさんの耳元に手を当ててコソコソ言いました。
「今日の朝ご飯はカボチャですよ」
コドラさんの目がパチッと開きました。
コドラさんはカボチャに弱いんです。
こうして朝ご飯を食べて、ついに出発することになりました。
二人で作ったトンネルを使ってアミアミの外に出ると、わたしは、コドラさん用のお水と人参を入れたバッグを持って、コドラさんの背中に乗せてもらいました。
「しゅっぱつしんこー!」
コドラさんが走り始めると、遠いと思っていた山にはすぐにつきました。この早さは、もしかしたら今までわたしとかけっこをしていたときは、コドラさんはわざと手加減をしてくれていたのかもしれないと思いました。ちょっぴりくやしいです。
それから、道はずっとまっすぐだったので、帰るときもきっと迷わないで帰れそうだと思いました。これにはちょっとホッとしました。
迷子になったときのさみしさは、ふつうのさみしさよりも何百倍もさみしいのです。
コドラさんは、山に入ったあとも、ズンズンまっすぐ進んでいきました。
「コドラさんはお家がわかるのですか?」
コドラさんは何も言わずに進んでいきます。きっと大丈夫、ということだと思いました。
さらに少し進んだところで、広い場所に出ました。山の中なのに木が生えていません。
奥にはわたしとコドラさんがほったトンネルよりも、もっとずーーーーっと大きなトンネルがありました。
……ということは、
「ここがドラゴンさんとコドラさんのお家なんですか?」
コドラさんはしゃがんでわたしを下ろしてくれました。
ヒーローの人と一緒にドラゴンさんと会ったときは、必死だったのであまりよくまわりを見れていませんでしたが、そう言われてみればこんな感じの場所だったかもしれません。
「でも、ドラゴンさんはいないみたいですね。どうしますか?」
コドラさんは一度こちらを見てから、トンネルを目指して歩き始めました。
わたしはコドラさんについていくことにしました。
トンネルの中は真っ暗で、途中からは迷子にならないようにコドラさんのシッポをつかんでいました。すこし歩くと、向こうに二つのキラッと光何かが見えました。
「!!」
わたしは最近あれと同じものを見たことがあります。
わたしはコドラさんにだけ聞こえるように言います。
「コドラさん、コドラさん、あそこにいるのはもしかして……」
コドラさんがグルルルと言いました。
すると、おくからもグルルルと聞こえてきました。
やっぱりそうでした。向こうに、ドラゴンさんがいるのです。
ドラゴンさんの声に対して、コドラさんはすぐに何かを返します。
どうやら、コドラさんとドラゴンさんは、二人で何かお話をしているみたいです。
そのお話の内容はわたしには全然分かりません。でも、久しぶりにお母さんに会っていろいろ話したいことがあるのは、わたしにもよく分かります。わたしも、ホントにたまーに、一回夢であった人ともう一回会うことがあって、そのときはいつもよりもたくさんお話ししたいことが出てきます。
コドラさんのお話の中に、わたしのことも少しだけあったらいいなと思いました。
わたしがコドラさんと一緒にしたいろいろ思い出していると、ドラゴンさんが大きな声でグオォォォっと何かを言いました。
わたしのまわりの空気がぶるぶるとふるえていました。空気さんも実は恐がりなのかもしれません。
おくの二つの光が、こちらに向かってきます。最初はゆっくりでしたが、だんだん早くなっていきます。
つかんでいたコドラさんのシッポが動いたと思うと、私はシッポにぐるぐるにされて持ち上げられ、コドラさんの背中に乗りました。
「こ、これから何をするんですか?」
わたしたちの横をドラゴンさんが走っていき、コドラさんはその後ろを追いかけていきました。
やっぱりドラゴンさんもコドラさんも、走るのが早いです!
すぐにトンネルの出口が見えてきました。
前を走っていたドラゴンさんがトンネルを出たと思うと、ドラゴンさんはヒザをぐっと曲げて、スゴイいきおいのままズバッと飛び上がりました。
ということは!
コドラさんもトンネルを出たところで、ドラゴンさんと同じようにぐっとヒザを曲げたみたいでした。背中に乗せてもらっているわたしからは見えませんが、さっきまでのリズムと違うのでわかります。
コドラさんは羽をのばしきらないで、よゆうを持った感じで広げて、思いっきりジャンプしました。
そこで羽を一度大きくバサッとした後に今度はしっかりと広げました。
「わぁぁぁ! すごい! すごいですよ! ほらほら、コドラさん! 下見てください! 下!」
コドラさんは飛んでいました。
やっぱりお母さんに教えてもらうのはとっても大事なことだったんだな、と思いました。
それと、今までは大きな石の上からジャンプして飛ぼうと頑張っていましたが、本当は思いっきり走ってから飛んだ方がうまくいくみたいでした。
ドラゴンさんというと、その場でバサバサっと空に飛んでいくイメージがあったので、すっかり思いつきませんでした。
「きもちー!」
空はとても気持ちよかったです。
風も気持ちいいですし、けしきもとっても気持ちいいです。
空が近くに、町が遠くに見えます。
わたしは町に向かって思いっきり手をふりました。でも、遠くて誰も見えていないみたいで、誰も手をふってくれませんでした。それでも、わたしはなんだか楽しくてたまりませんでした。
コドラさんは、最初はドラゴンさんの後を追って飛んでいましたが、途中で横並びになって一緒に飛んだりしました。
また何かお話をしているみたいでした。ヒーローの人と一緒に会った時の、あの怖かったドラゴンさんのイメージは全然なくなりました。
それから、わたしはドラゴンさんの背中にも乗せてもらいました。ドラゴンさんの背中は広いので寝っ転がったりもできそうでしたが、怖くてそんなことはできませんでした。
それから夕方になるまで、わたしたちはずっと空を飛んでいました。
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