「ヒーローの人」編

第11話 ヒーローの人1

 ポスン、という感じで、わたしは夢の中にお仕事へきました。

 

 今回来たのはお外でした。でも、いつもとは違う感じがします。

 何が違うって、いろいろ違いすぎて何が違うと言ったらいいのかわからないぐらいです。周りの人が着ている服が変だったり、町の感じも変だったり。

 でも、さいてるお花とかは普通だし、遠くには大きな山だって見えたり……って、

「あー!!!!」


 わたしはとっても驚きました。指だってさしてしまいました。

 だって、向こうの方に飛んでいる、アレは、アレは!


「ドラゴンさんが飛んでます!」


 でも、町を歩く周りの人は全然気づいていないみたいです。とてつもない大発見なのに!

 わたしはみんなに教えてあげようと思いました。ドラゴンを見ないのは絶対にソンだからです。

 近くを歩いている人の服の端っこを引っ張ります。


「ねえねえ、ドラゴンさんが飛んでます! 見てください! ほら、あそこ!」


 でも、町の人は「そ」なんて言ってすぐに通り過ぎていってしまいました。

 きっとわたしが子供だから嘘を言ってると思っているんです!

 めげずに次にチャレンジです。


「見てください! おっきなドラゴンさんがあそこにいますよ! いなくなっちゃうから、早く見た方がいいですよ!」

 

 でも次の人も「あぁ」なんて言ってスタスタ歩いていってしまいました。

 それから何人かにしがみついたり、悲鳴を上げながら言ってみたり、いろいろな方法を試してみましたが、全然誰もダメでした。


「はぁ……」


 わたしは疲れて道の端っこでペタンと座りました。いつのまにかドラゴンさんは見えなくなっていました。


「なんでみんなドラゴンさんを見てくれないんでしょう……」


 わたしは近くに落ちていた石で、地面にドラゴンさんの絵を描いていました。

 なかなかうまく描けないのでどれくらいの時間経ったかは分かりませんが、突然声を描けられました。


「君か、路上でドラゴンの事を見ろ見ろと騒いでいたという子供は」

「?」


 わたしに話しかけてきたのは、普通の男の人でした。でも服がちょっとちゃんとしてるかもしれません。


「親はどうした」

「お父さんとお母さんはいないですけど」

「はぐれたのか。まったく」


 男の人はため息をつきました。


「じゃあ町の集会所に行くぞ。きっとそこで依頼すれば君の親も見つかるはずだ」

「んー」


 しゅーかいじょというのがどんな場所なのかはわかりませんでしたが、とりあえず行く場所もなかったし、もしかしたらこの人が夢を見ている人なのかもしれないので、ついていくことに決めました。


「はーい」

「よし、いい返事だ」



 しゅーかいじょというのは人がたくさんいる場所でした。テーブルで飲み物をのんでる人もいるし、紙がたくさんはってあるカベとにらめっこをしている人もいます。

 でも、どの人も、お外よりもっと変な服の人ばっかりでした。

 重そうな剣を持っていたり、大きなリュックを持っていたりしています。そう言われてみれば、わたしもフサフサの毛がたくさんついている服を着ていました。これがここでは普通のふくなのかもしれません。

 わたしをここに連れてきた人は、しゅーかいじょに着てすぐにお店の人のところにいって、何かを話して、チャラっと音のなる袋をもらっていました。

 その後、

「じゃあ、ここにいればきっと親が見つかるから、おとなしくしているんだぞ。俺は行くからな」

と言ってどっかにいってしまいました。


 わたしはとってもヒマになってしまったので、また話しかけてまわってみることにしました。

 

「うんしょ」


 わたしは、わたしよりも背の高いテーブルでいろいろ飲んで話している人たちの席に登って座りました。


「こんにちは」

「お? なんだこのガキは?」

「どっかの迷子クエストじゃねえのか?」

「時間がかかるわりに金にならねえアレか」


 何の話をしているのかはよくわかりませんでした。なので、さっきのドラゴンさんの話をしてみます。


「山のほうで、さっきドラゴンさんが飛んでました! こんなに大きくて、バサバサって!」


 わたしはイスの上に立ち上がって、その大きさとハネの動きを精一杯マネしてみました。

 男の人たちはお互いにお互いの方を向いて、困ったような顔をしていました。

 そこでわたしは、さらにイスの上でちょっとだけとびはねて……


「おっと、あぶねえ」


 となりのイスに座っていた男の人がわたしをキャッチしてくれました。


「おいおい、いい加減にしてくれよ。こいつをやるからおとなしくしててくれ」


 わたしは男の人からジュースの入ったコップをもらいました。近くにあったストローもさしてくれたので、少しすってみると、中身はリンゴジュースでした。


「えへへ、ありがとうございます。でもドラゴンさんがね――」

「わかったわかった、わかったからよ。ドラゴンのことはよーくわかった。でも俺たちじゃどうしようもねえ。だろ?」

「ああ。そうだ」

「どうしようもないんですか?」

「そうだ。だが、ドラゴンにばっかり挑みかかる死にたがりド変態――」

「おい」

「う、違う。そう、ドラゴン博士がいるからな。そいつのところに連れて行ってやるよ」

「ドラゴン博士さん!」


 ようやくドラゴンの話を聞いてくれる人が見つかりそうです。

 そんなことを教えてくれたことに、なんだかちょっぴりうれしい気持ちになりました。


「ドラゴン博士さんはどこにいるんですか!?」

「向こうだ。よっと」

「わわっ!」


 男の人はわたしを片手で持ち上げて、肩に座らせてくれました。


「すごいです! これが大人の人の見ている世界なんですね!」

「はは、いっちょまえなこと言うじゃねえか。コップ落とすなよ」


 男の人は仲間の男の人に「じゃあ明日は定刻に例の平原でスライム狩りな」と言って歩き始めました。

 わたしは、あのドロッとひんやりのスライムを狩るということが全然想像できなかったので、ドラゴン博士さんのところに着くまで男の人に質問をしてみることにしました。

 

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