第10話 お城の人(終)
「はい! 出られると思います!」
わたしにはとっておきの作戦がありました。
お城のに窓やドアが無くても、お城のカベがどんなに固くても、関係なく外に出ることができる作戦です。
「お外に出るには、目を覚ませばいいのです」
「現実の世界か……」
「そうです。現実の世界だったら、きっと窓とかもあると思います」
お城の人はわたしの言葉を聞いて、のどに魚の骨が刺さってしまった時のような顔をしました。
「これはあまり言いたくないのだけれども」
「?」
「さっき君がいろいろな人の事を教えてくれていた時に、思い出したんだ」
「ってことは、現実の世界を!?」
「そう」
「じゃあ現実世界に戻ることも怖くないですね! よかったです」
「まぁ、怖くはないんだけれども……」
お城の人は口を「い」の形に開いて、数秒間動きを止めました。言葉を選んでいるように見えます。
「……ひきこもりだったみたいなんだ、俺」
「ひきこもり」
「そう。家どころか部屋から出ない。そんな人間だったみたいなんだ」
「じゃあ今度お外に出てみればいいですね」
「いやいやいや、そんな、今更ひきこもりが……」
「ふぇ?」
わたしには全然よくわかりませんでした。
「だって、今までいろんな事を言っていろんな事から逃げて、それでいて世界を見下して、そんなだったのに」
「でも、お外に出るだけですよ? お部屋のドアを開けて、おうちのドアを開けて、歩くだけです」
「でも、だって……でも……」
お城の人の声はだんだん小さくなっていきましたが、その後の言葉が見つからないみたいでした。
わたしはじっと待っていました。
わたしも、本当に何でお外に出られないのかよく分からなかったので、これ以上何もいえない気がしたからです。
お城の人は、ゆっくりと立ち上がりました。
「いや、そうだな、本当にそれだけのことなんだ」
そう言うと、ぐーっとノビをしました。
「俺、帰るよ」
「はい!」
こんなにたくさん考えて悩んで決めたことです。わたしの記憶はなくなっても、きっと目が覚めてもちゃんとお外に出ることができると思います。
「じゃあわたしが言った言葉を、後から続けて言ってくださいね」
「あー、帰る前に、何かこの世界の物を現実に持って帰れたりしないのかな?」
「んー、夢ですから……思い出くらいしか?」
「そうか。十分だ」
「もう大丈夫ですか?」
「ああ、頼む」
「じゃあ続けて言ってください」
わたしはすぅっと息をすって、ハキハキといつもの言葉を口にしました。
「ねむいのねむいのとんでゆけ」
「ねむいのねむいのとんでゆけ」
お城の人が白い光に包まれました。
あぁ、お城の人ともこれでお別れなのか、といつもの光を見ていつも通りそんな感じに思ってしまいます。
その光はグインと大きくなって、すぐになくなりました。
そこにはもうお城の人もいません。
わたしは大きなベッドからぱっとおりて、パタパタと部屋から出ました。
わたしはカッチューさんに挨拶をしてから次のお仕事に行こうと思いました。
迷子にならずにカッチューさんのところまで行けるでしょうか?
ちょっとした冒険の気分です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます