第9話 お城の人3
「実は、あなたは今夢を見ているのです。この世界は夢でできています」
「この世界が夢?」
「はい。それで、寝ている人は起きなくてはいけません。だから、わたしが起こしにきたのです。それがわたしのお仕事です」
「ふむ、しかしそれを証明できるかね?」
現実世界の記憶が無い人やぼんやりとしか覚えていない人は、「ショウメイしろー」と言ってくることが多いです。お城の人もその一人だったみたいです。
方法はいくつかあります。でも、人によって見ている夢も違うので、その方法も違います。
わたしは自分の手にしっぺをしてみました。
「うぅ、いたい……」
「なにをしているのかね」
「この夢がいたい夢かいたくない夢かをやってみました。もしいたくなければ、夢だって信じてくれますよね?」
「ううむ、まあよく耳にする話ではあるが」
「でも、この夢はいたい夢でした」
お城の人も自分の手をつねって確かめているみたいです。きっと結果はわたしと同じです。
次の方法は、外を見てみることです。
このやり方は、実はわたしが見つけました。
現実の世界はどこまで行っても世界が続いているらしいのですが、反対に夢には世界の終わりがあります。世界の終わりと言っても、こわいものではありません。
夢を見ている人によって終わりはとっても遠くだったり、すぐ近くだったり、いろいろなパターンがあります。
さらにさらに、世界の終わりは全部がぼんやりしていたり、急にまっ黒くなっていたり、これも人によっていろいろあります。
でも、おうちの中で何かをしたりする夢を見ている人は、おうちの外がすぐに世界の終わりだったりすることがよくあります。
逆に、これを利用して夢を見ている人を見つけるワザもあります。
このお城も、とっても大きいけれど、それでもたぶん一つのおうちだと思うので、すぐに世界の終わりを見せてあげることができるかもしれません。
そこでわたしはきょろきょろしてみました。でも周りには窓がありませんでした。
「うーん」
わたしは頭の両側に手を当ててよーく思い出してみます。
あやしいカッチューさんと会ったお部屋、おいしいご飯を食べたお部屋、プールという名前のでっかいお風呂のお部屋……。
考えてみると、どこからも外が見えた覚えはありませんでした。
でも、窓が無いおうちなんてあるんでしょうか?
これだけでっかいおうちなので、おうちに住んでいる人に聞いてみれば、どこかにはあるだろうと思いました。
「このお城から外が見たいんですけれど、どこかに窓はありますか?」
「窓は我が城には存在していない」
「えー!?」
わたしはビックリとガッカリでした。
でも、窓がなかったら、今がお昼なのかどうかもわかりません。
ひなたぼっこしてぼんやりするのが好きなわたしにとってはとっても大事なことです。
わたしがショックを受けていると、お城の人はまゆげをぐっとよせました。
「しかし困ることはない。外のことなら熟知しているからな」
「お外のことをジュクチ?」
「そうだ。この城の外は地獄だ」
「ジゴク!?」
わたしはジゴクを知っています。豆まきをしたときに、鬼さんはどこに行くのかと聞いたら、ジゴクというおうちに帰るのだと言っていました。
それでわたしは安心して鬼は外をしたので、よく覚えています。
「じゃあ鬼さんがたくさんいるんですか?」
「本物の鬼ではない。だが、鬼のような者がうようよいる。自分勝手なもの、他人の手柄は自分のもので、自分の失敗は他人のもの、ニコニコしている裏で陰口ばかりを言うもの、努力は認められても報われず、すこしだって踏み外せば後ろ指を指される。そんな最低な世界が外には広がっているのだよ」
わたしは頭をカクッとナナメに倒します。
「んぅ、よくわからないです」
「子供の君には難しすぎたようだな」
「ううん、そうかもしれません。でも違うかもしれません」
「違う?」
「はい。だって、わたしが知っているお外はとっても良いところです。お日様がぽかぽかで気持ちよかったり、初めて会うわたしに優しくしてくれたりする人にも会いました」
「そんな奴らだって、裏で何を考えているかわかったものではない」
「んー、ぜったい違います! と思います!」
わたしはこれまでいろいろな人と会って、いろいろなものを見てきました。直接会ったわたしの方が、会ってないお城の人よりも分かってるはずです。
「お外では夢でも夢をかなえようとする音楽の人とか、怖いのからみんなを救うヒーローの人とか、誰も見ていないところでもゴミをひろっちゃうボランティアの人とか、どんな人ともすぐに仲良しになれちゃう友達の人とか、チームの弱い人でも楽しく遊べるようにこっそりうまくパスしたりするサッカーの人とか、とにかくとってもたくさんのいい人がいました! だから、外にはとってもいいことがたくさんあります! わたしは見たから知っているんです!」
「…………」
「それに、お城の人だって、わたしにいろんな大事な物を見せてくれたいい人です」
「…………」
「もちろんわたしいい人です……えへへ」
自分で言って、自分で照れてしまいました。なんだかちょっと恥ずかしい気持ちです。
「わたしもあなたも良い人ってことは、きっとみんなも良い人だと思います。だから、お外はジゴクじゃないと思います」
「――いい人……」
お城の人は少し下を向いて、何かを考えているみたいでした。
「俺が……。俺はひたすら自分の自慢をしていただけだ。俺はおまえに知ったかぶりをしていただけだ。俺は見栄を張っていただけだ。なのにおまえは……」
お城の人の目の中にわたしが見えました。わたしは目がいいので、ばっちり見えました。
「俺は外に出られるかな?」
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