第8話 お城の人2
王様にそっくりの人は、わたしの言葉を聞いてうれしそうに話し始めました。
「我は王様ではない」
「ちがうの? とってもそっくりなのに」
たしかに着ているものはそっくりでしたが、よーく見てみると王様よりもずっと小さい感じでした。わたしとおとなの間ぐらいかな、と思いました。
「じゃああなたは誰?」
「我はこの城の主だ。我はおまえが気に入った。歓迎しよう」
「ここはお城で、あなたはお城の人?」
「そうだ」
「じゃあこのお料理は?」
「それらの料理もすべて我のものだ。腹が減っているのか」
わたしはお腹が減っているという感じがどんな感じなのかいまいちよく分かっていません。
夢の中なので、食べなくても寝なくても生きていけます。
でも、お料理はお腹が減っていないと食べられないものなので、わたしはコクコクとうなずいて見せました。
お城の人は両手をバッ広げました。
「よろしい。ならば食すことを許可しよう」
「わーい! ありがとう!」
「構わん。我が城専属の料理人の腕は一級。味の保証は我がする」
「いただきまーす」
わたしは目の前にあったお魚さんを食べてみました。
今まで食べたことがない味でしたが、ほっぺたが落ちそうになってしまいます。わたしはあわててほっぺたを両手でしっかりおさえます。
「おいひー!」
「よいよい」
お城の人はわたしが食べている間、ずぅっと食べているものの説明をしていました。
それがどんなに貴重な食材を使っていて、どんな難しい方法でお料理されていて、どんなにおいしくて、それをどれくらいのペースで食べているのか。
わたしには説明が難しすぎてあまり理解ができませんでした。
でも、お料理がおいしくて、お城の人が満足そうだったので、わたしもいい気持になりました。
「ごちそーさまでした!」
わたしのお腹は見事にプックリふくらんでいました。
お城の人はそんなわたしを見て、「フム」と腕組みをしました。
「では腹ごなしへいくとするか」
「はらごなし?」
「ついてきなさい」
「はい!」
わたしはビシッと手を額にやってから、いすから飛び降り、トコトコとお城の人の後についていきました。
こんなに大きなお城なのに、ズンズン進んでいくお城の人はすごいなと思いました。
わたしなら絶対に覚えきれなくて、すぐに迷子になってしまいます。
しばらく歩くと、お城の人が今までよりも少し大きめのドアをバンッと両手で開けました。
「ここが我が城自慢の屋内プールである」
一面に広がる水水水です。
「わぁ! こんなに大きいお風呂初めてです!」
「お風呂ではなく、プールであると――ブッ」
突然ブタさんのまねを始めたお城の人の方を見ると、お城の人と目が合いました。
お城の人はあわてて後ろを向きます。
「どうしたんですか?」
「いいや、存分に我が城自慢のプールを楽しんできたまえ」
「はーい!」
わたしはすでに服をすべて脱ぎ捨てていたので、プールに入る気まんまんでした。
わたしは思い切りプールに飛び込みます。
最初に思ったのは、熱くない! ということでした。
そして次に思ったのは、足がつかない! ということでした。
わたしは泳いだことなんて一度もないので、手で水をかいてみてもどうにもなりませんでした
わたしは、今日二度目の白い光を見ました。
あぁ、なにも考えられなくなっていきます。
「ハッ!」
わたしが目を覚ますと、またもや大きなベッドの上にいました。
一度目と違ったのは、お城の人がわたしのことをのぞき込んでいたことです。
「気がついたか」
「うん」
「実はもっとすごいものがある」
お城の人はそう言うと、地面に横にしてあった大きな絵を立たせました。そこにはとってもきれいなひまわりの絵が書いてありました。
「ゴッホのひまわりだ」
「ふつうのひまわりとは何が違うんですか?」
「ふむ、ではまずゴッホの生い立ちから語らねばなるまいな」
お城の人はゴッホさんのお話をして、どうやってこの絵を手に入れて、どれだけ価値のあるものかをよく説明してくれました。
わたしに理解できたのは、ゴッホさんがすごいお絵かきさんで、もう死んでしまっているということぐらいでした。
「次にこれだ」
――――――
――――
――
お城の人は、それからたくさんのものを見せてくれました。
わたしにはよく分からないものでも、絶対に説明してくれたので、ちょっぴりは分かったような気持ちになれます。
せっかくいろいろなものを見せてくれたので、わたしもとっておきのものを見せてあげることにしました。
「あのねあのね、わたしも一個だけいいものをもっているんです。だから特別に見せてあげます!」
「そうか」
お城の人はあんまり興味がなさそうでした。
でも、わたしも久しぶりに見てみたくなったので、ぎゅっと目をつむって、両手をおにぎりを作る形にしました。
そうして心の中にわたしが見せたいものを思い浮かべます。
5秒ぐらいそうしていると、手の中にちょっとの重さとひんやりが感じられました。
「出た!」
わたしは手を開いて見せました。
「これはわたしがお仕事をするしるしです」
わたしの手のひらの上には、片手でもてるぐらいの大きさの銅メダルみたいなものが乗っています。
このお仕事を始めたときに、先輩にもらったものです。丸の中にはなんだかよくわからない、細かい模様がかいてあります。
お城の人は、それをちょっとだけながめて、やっぱり興味が無くなったみたいな顔になりました。
「ふん、ただのブロンズではないか」
お城の人は、首につけていたかざりを取ると、わたしに見せてくれました。
「この首飾りには、ブロンズの他にもゴールド、シルバー、プラチナ、さらにその他あらゆる宝石がちりばめられている。このピンクダイヤなど、美しかろう」
「わぁ! とってもキレイ!」
「であろう。これほど素晴らしいものは世界にそうそうあるものではない。君の首飾りとは少しばかり格が違ってな」
「でも、わたしはこっちの方がいいです」
そう言って、わたしはもう一度お城の人に見せつけました。
「これは、夢から覚ますお仕事をする人だけが持てる、とっても大事なものです。がんばっていろいろ教えてもらったりして、ようやくもらうことができたんです」
「夢から覚ます仕事……?」
「はい、そうです!」
わたしは、わたしがここに着た目的を話してみることにしました。
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