「お城の人」編

第7話 お城の人1

 ポスン、という感じで、わたしは夢の中にお仕事へきました。


 到着したのはキラキラしてキレイな広いお部屋でした。こんなお部屋には来たことがありません。

 それに、周りにはとってもいろいろなものがありました。でっかい絵とか変な形をしたツボとか、大きな丸い柱とか、これまで一度も見たことがないものばっかりで、わたしの目が白黒してしまいます。


「あっ!」


 そんな中で、わたしは早速あやしい人を見つけました。とても恐ろしい見た目をしていて、ただものじゃないとすぐに分かりました。

 わたしの目にくるいはありません。

 わたしはサッと大きな柱の後ろに隠れます。


「……」


 息を止めて、そーっと柱の向こうにいるあやしい人を見てみます。

 どうやらわたしには気づいていないみたいです。

 わたしはラッキーだと思いました。ほとんど丸見えの場所にいたのに、相手に気づかれていないからです。しかも、あんなにへんてこであやしい人は、夢を見ている人のことが多いのです。

 わたしはあやしい人に近づこうと決めて、こころの中で数字を反対に数えます。


「3、2、1、」


 ゼロっと心の中で数えたのと同じタイミングでまた息を止めます。


「っ――」


 怪しい人から遠くの大きな柱から近くの大きな柱へ一生懸命走ります。

 暑くもないのに、きんちょうで汗が出てきます。ダラダラではなく、タラーって感じです。


 わたしは、もう一度そーっと柱からあやしい人の方をのぞいてみます。

 どうやら気づかれていないみたいです。

 さらに! よく見ると手には武器のようなものを持っているではないですか!

 あれで刺されたら、と思うと……。あぁ、どうしよう。夢の中では人が刺されたりすることがあるので、ユダンはできません。今回がそのパターンかもしれません。

 どきどきが最大になったところで、突然後ろから声がしました。


「あら、どうしたのかしら!」

「いぃぃッ!」


 思わずなさけない声が出てしまいました。

 すぐに声のした方を振り返ると、そこにはフリフリの服を着た女の人が立っていました。


「どこから入られたのでしょうか。こんなに可愛らしいお嬢様、この辺りでは拝見したことがございませんが」

「シー! シー!」


 わたしは右手のお母さん指を口に付けて、左手のお母さん指をあやしい人に向けて、静かにするように必死にアピールしました。

 わたしのニンジャのような隠れ術が無駄になってしまいます。

 そんなわたしの様子を見て、女の人はにっこり笑いました。


「甲冑がどうかされたのですか?」


 女の人はあやしい人の目の前まで歩くと、なんとあやしい人をコンコンとたたいて見せました。

 わたしはすぐに柱に隠れました。これでわたしのことがバレてしまったと思いました。

 でも、あやしい人が近づいてくる音はしません。

 耳をすましていると、女の人のくすくすと笑う声が聞こえました。


「甲冑が怖いのでございますか? 大丈夫ですよ、お嬢様。甲冑は生きておりません。急に動いたりもいたしませんよ」


 どこからどうみても人間の形をしているのに、そんな訳ないと思いました。

 きっとまだ女の人はカッチューさんの本当の姿を知らないのです。もしかしたら女の人がカッチューさんに操られている可能性もあります。

 だから、わたしは柱から飛び出して、カッチューさんを正面から見ながらいかくします。


「そうやってユダンさせる気です! わたしはだまされません!」

「そんなことございませんよ。ほら、この通り」

 そう言って女の人はなんのためらいもなくカッチューさんの頭をもぎ取りました。


「キュゥ」


 わたしはあまりに衝撃的な映像を見て、世界が真っ白になっていきます。


「大変!」


 女の人がこっちに来てくれているのがわかりました。でも、カッチューさんの頭を持ってくるのはやめてほしいと、ぼんやりと何も考えられなくなっていく中で思いました。




「ハッ!」

 わたしはガバッと起きあがりました。

 いつのまにか大きなベッドで毛布にくるまっていました。

 周りには誰もいないみたいですが、今はそれどころではありません。

 なぜなら、このにおい!

 わたしはクンクンとにおいのする方へフラフラと歩いていきます。

 ドアを開けて、ろうかを進んでまたドアを開けました。

 すると、ドアの向こうからとてつもなくいいにおいがブワッときました。


「おおぉぅ」


 わたしは一目散に走って、席につきました。

 目の前にはたくさんのお料理が並べられていました。食べたことのないものばかりで、わたしの大好きなカレーとハンバーグはありませんでした。


「おまえか、我が城に忍び込んだというのは」

「ほぇ?」


 わたしはそれまで料理を見るのに一生懸命で、そこに人がいるなんて気づきもしませんでした。

 そこにいた人は、とってもキラキラした服を着ていました。そして何より、頭にかんむりが乗っていました。


「王様だ!」


 前に本の人のところで読んだ本に出てきた『王様』にそっくりでした。

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