第15話 ヒーローの人5
コドラさんはいったい何を見ているのでしょうか。
ああでもないこうでもない。山はたくさんあるので、そもそもコドラさんが山を見ているのかどうかもわかりません。ただお外のふうけいを見ているだけかもしれません。こどものわたしには、なかなか答えがわかりませんでした。
どうしたってわからない。こういうときは、やっぱり聞いてみるしかないと思いました。
「コドラさん、そっちに何がありますか?」
「ぅぉぉぉぉぉぉぃ」
――!?
コドラさんがしゃべった!?
そう思ってびっくりしてしまいました。でも、ホントはそうではありませんでした。
「どうしたんだおめえら。チビ同士、仲良くそろってこっち眺めちまって。俺が来るのを待ち望んでたのか?」
しゃべっていたのは、ヒーローの人でした。
ヒーローの人は、わたしとコドラさんが見ていた方向から歩いてきました。わたしは山の一番上の方ばかり見て考えていたので、ヒーローの人が来ていたことには全然気がつきませんでした。
「突然来たのでビックリしちゃいました!」
「俺はいつも通りフラッと来たつもりだったんだがな」
ヒーローの人は、わたしがコジーンで生活を始めてから、何回かドラゴンさんの様子をお話に来てくれました。
そして、来るときはいつも突然でした。お料理を食べているときや、お風呂に入っているとき、朝起きてぼーっとしているとき、いつでもお構いなしで、しかもいつも――
「あれ? でもでも、そっちには入り口ないですよね?」
そうでした。ヒーローの人は、いつも玄関からは入ってきません。必ず広い原っぱの方から来るのです。でも、こっちには入り口がありません。
コドラさんと原っぱ一周草かりをしたことがあるからわかります。ここは一周、ずーっと高いアミアミで囲われています。
ちなみに、草かりをするようにおじいちゃんに言われていたはずなのに、途中からお散歩になってしまったのはわたしとコドラさんの秘密です。
ヒーローの人は、ゴキゴキと首をならしました。
「あったりめえだろ。わざわざここまで来るのは面倒だから、ドラゴン討伐に行った帰りについでに寄ってやってるだけなんだからよ」
「じゃあ、あの高いアミアミは――」
「よじ登ったに決まってんだろ。回り込んでるほどヒマじゃねえ。最短ルートがあるのにそれを使わねぇ手はねーだろ」
「もしかして!」
「あ?」
わたしは大きな声を出してしまいました。
だって、一つなぞが解けたような感じがしたからです。
「コドラさんが見てるあの山って!」
わたしはヒーローの人が来た方向にあった、他の山と見分けのつかない普通の山を指しました。
「あの山は、大きなドラゴンさんがいる山ですか?」
「まあそうとも限らねえけど」
ヒーローの人は疲れたみたいで、背負ってた大きい剣を、ドラゴンさんが座っている大きい石に立てかけました。
「そうだな、俺が行くのはいつもあそこだ。ドラゴンはいつも色んなところを飛び回って獲物を探してる。でも、ドラゴンの寝床があるのはあの山だけだ。つまり、あの山に行くのが一番ドラゴンとの遭遇確率が高いってわけだ。効率を重視すれば自然とそうなる」
「……あそこにはドラゴンさんのお家があるんですね」
「そうだな」
「ということは、コドラさんの本当のお家も……?」
ヒーローの人はもうお話に飽きてしまったみたいで、ストレッチを始めました。
前に後ろに体の上の方だけを倒したり起きあがったりするので、わたしも首が疲れてしまいます。
「ん――と。そう――だな。もしかしたら――そうかもしれね――な」
「やっぱり!」
わたしは分かりました。
きっとコドラさんはお母さんに会いたいんです。
コドラさんはまだ子供なので、きっとお母さんに会って、飛び方を教えてもらいたいんです。
だったらわたしも、コドラさんとお母さんを会わせてあげたいなって思います。
でもヒーローの人は前に、わたしをドラゴンさんのところには連れて行ってくれないと言っていました。だから、わたしはこのことをヒーローの人にはヒミツにしておくことにしました。
ひとりではあんな遠いところにある山まで行くことはできません。でも、コドラさんと一緒なら、大丈夫です。わたしはコドラさんの背中に乗せてもらえるからです。
わたしを連れて行ってくれるのはコドラさんで、こっそり計画を立てるのがわたしの係です。
ヒーローの人が、パンっと手をたたきました。
ストレッチが終わったみたいでした。
「うし、今日はこれで終わりな。またついでに見に来るからよ、それまでそいつと仲良くやっとけよ」
「わかりました!」
ヒーローの人は、コジーンの方に歩いていきました。
わたしはそんなヒーローの人の背中を少しながめた後、クルッとコドラさんの方を向いてコショコショ話をしました。
「コドラさん、わたしが絶対にお母さんに会わせてあげるね」
コドラさんは今度こそ大きな石から飛びあがりました。が、やっぱり飛べずに地面に着地してしまいました。
でも、コドラさんはちょっとうれしそうに見えました。
「もし飛べるようになったら、わたしを背中に乗せて、お空に連れて行って欲しいです!」
コドラさんは、羽をバサッと広げて答えてくれました。
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