第14話 ヒーローの人4

 わたしが連れて行かれたのは、コジーンというところでした。


「おーいおやじー。迷子クエストみてぇだからつれてきたぞー!」

 

 ムキムキの人はドアの向こうに大声で叫びました。

 すると、中からヨボヨボのおじいちゃんが出てきました。


「なんじゃい、騒々しい」

「騒々しいもなにも、孤児院に孤児連れてきただけだっつうの」

「最近めっきりそんなこともなかったがのぉ」

「どうもコイツはドラゴンと仲良くしたいらしくてな。あのドラゴンバカでも手を焼いていたみたいだからここに連れてきたんだわ。それに、アレの相手させてやれば丁度いいだろ」

「ふむ……。お主、本当にドラゴンと仲良くなんぞなりたいのか?」

「はい! ドラゴンさんと仲良くなるまで帰りません!」

「そうか。よし、子供は預かった。たまには顔を見せに来てやってくれ」

「それはあのドラゴンバカに約束させたから問題ねえ」


 そう言ってムキムキの人はノソノソと来た道を戻っていきました。


「ついて来なさい」

「はい!」


 わたしはおじいちゃんに言われたとおりについて行きました。おうちの中は、おもちゃとか絵とかがたくさんありました。きっとわたしの他にも子供がいるんだろうな、と思いました。


「ほら、ここだ」


 おじいちゃんがドアを開けると、その先にはひろーい草むらが広がっていました。今は夕方ですが、お昼にここにきたら、きっと気持ちよくお昼寝ができると思います。

 でも、今は夕方なのでお昼寝ではなくなってしまいます。

 もしかしたら、これだけ広いので、たくさんの人でサッカーをしたりする場所かもしれません。

 わたしはサッカーをするならゴールを守る人派です。


「すごい広いです。ここで何かをするんですか?」

「何か、というか……ほれ、あそこを見てみぃ」


 おじいちゃんの指の先の方向をずっと見ていると、何か黒い点が見えました。


「あれは……?」

「近づいてみるかの」

「そうしてみます」


 わたしはおじいちゃんと一緒に、黒い影に近づいていきました。

 そして、わたしは気づきました。

 あれは……!


「小さなドラゴンさんです!」


 わたしは一生懸命走りました。

 確かにそこにいたのはドラゴンさんでした。かっこいい羽とかっこいい目。でも、大きさはおじいちゃんと同じぐらいでした。ムキムキの人よりも全然小さいです。

 わたしはそのかっこよさとかわいさに、興奮してしまいました。


「こここ、こんにちは!」


 小さなドラゴンさんは、わたしの方を少しだけ見て、すぐにそっぽを向いてしまいました。

 でも、大きなドラゴンさんみたいに怒っているわけではないみたいです。

 わたしは小さなドラゴンさんの前に回り込みます。


「こ、こんにちは! 小さいどうし、仲良く遊びましょう!」


 小さなドラゴンさんはまたそっぽを向いてしまいました。わたしには全然興味がないみたいです。


「これこれ、気に入ったのは良いが、そう焦るでない。お主は今日からコドラの世話係じゃ」

「コドラ?」

「このドラゴンの名前じゃ。一生懸命世話をしてやれば、いつか友達になれるかもしれん」

「お友達……!」

「そうじゃ」

「ご飯!」

「そうじゃ」

「お掃除!」

「そうじゃ」

「お昼寝!」

「そうじゃ」

「ハッ! でも、そんなにゆっくりしてたら、コドラさんがとっても大きくなっちゃいます!」


 わたしは大きくなったコドラさんとお昼寝をするのを想像してみました。


「……お昼寝の時つぶされちゃうかもです……」

「安心せい。ドラゴンは何千年も生きる。こやつだって、もう百年は生きておるだろうが、まだこの大きさじゃ」

「100年!? わたしだったらおばあちゃんになっちゃいます!」

「そうじゃ。だから今日はひとまず寝て、あしたからゆっくり仲良くなっても問題ないじゃろ」

「はーい」


 わたしはコドラさんに「また明日」と約束して、おじいちゃんのおうちに帰って、ぐっすりと眠りました。



 次の日からわたしは一生懸命お世話をしました。

 コドラさんが好きな食べ物はカボチャ、好きな飲み物はお水、好きな遊びはかけっこ、好きな時間はお昼、好きなお湯はアツアツ、好きなブラシは柔らかい茶色のヤツ、好きな場所は大きな石の上です。

 コドラさんは、最初は何をしても反応してくれませんでしたが、少しずついろいろ一緒にしてくれるようになりました。

 その中でも一番うれしかったのは、わたしを背中に乗せて、飛ぼうとしてくれたことです。

 お気に入りの大きな石の上にのぼって、そこからジャンプしながらバサバサと羽を動かしました。

 でも、コドラさんはまだ飛べないみたいです。

 100年も生きているのに、何で飛べないんだろうな、と思いました。わたしの大好きなペンギンさんだって、100年もあったら、きっと少しは飛べるようになっていると思います。


「なんでコドラさんドラゴンさんなのには飛べないんですか?」


 もちろんコドラさんはしゃべりません。

 でも、わたしの言っていることは伝わっていると思います。だって、「今日のご飯はかぼちゃにしようかなーと思いますけど、どうですか?」と言うと、うれしそうにバタバタしますし、「山からおいしいお水を持ってきましたよー」と言うと、すぐに近づいてくるからです。

 コドラさんはまた大きな石の上にのぼりました。また飛ぶ練習をするのかな? と思いましたが、違いました。

 コドラさんは、石の上からじーっと遠くの山を見ていました。わたしは考えました。

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