第12話 ヒーローの人2
わたしが四つ目ぐらいの質問をしようとしたところで、男の人は止まりました。
「ほらよ、こいつがそのドラゴン野郎だ」
「おぉ!」
「ん? 誰だ、おまえらは?」
「おまえが俺を知らなくても、他の奴らはおまえを知ってんだよ、ロクに経験値も貯めねえから弱ぇくせに、ドラゴンにばっか挑み続けるやつがいるってな。このチビがどうしてもドラゴンの話をしたくてたまらねえらしいから、おまえの相手にちょうどいいと思ってな」
わたしはドラゴン博士さんの反対側にストンと下ろされました。
「ありがとうございました」
男の人は元の方へ帰りながら後ろ向きで手をあげてひらひらしてくれたので、わたしも手を振りかえしました。
男の人が見えなくなったので、今度はドラゴン博士さんにあいさつをします。
「こんにちは」
「ん」
「あなたがドラゴン博士さんですか?」
「ん、いや、俺はヒーローを目指している冒険者だ」
あれ? わたしが聞いていた話と違うみたいです。
「でも、さっきの人は――」
「だが、ドラゴンのことはこの集会所にいる誰よりもよく知っている自信がある」
「おぉ! じゃあドラゴン博士さんは仮のすがたで、本当はヒーローの人ってことですね!」
ヒーローの人はあごを少しなでてから答えてくれました。
「そうだ」
「わかりました。でも、ここも集会所なんですか? さっきまでの場所とは違って人が少ないですけど」
「ここも間違いなく集会所だ。ただし」
「ただし?」
わたしはゴクリとつばを飲み込みました。つばを飲み込んでも、のどがかわいているのが変わらないのってなんででしょう。
とりあえず、男の人からもらった飲み物がまだ残っていたので、チューッと飲んでのどがかわいていたのをなくしました。
「ただし、ここは高ランククエストのみを発行している場所だ」
「こうらんくくえすと?」
そう言えば、さっきの男の人たちも、くえすとという言葉を使っていたような気がします。
「おまえ、ここのこと何にも知らないのか?」
「はい。実は、初めてここに来たんです。だから分からないことだらけです」
「ここっつうのは、この集会所のことか?」
「違います。この世界のことです」
「世界?」
「はい」
わたしはこの人に夢の話をしてみることにしました。
「実はこの世界は夢の世界なんです。わたしは夢を見ている人を夢から覚ますお仕事をしています」
「夢の世界?」
「はい、そうです」
ヒーローの人は口を手で隠して少し考えて、すぐに理解したみたいでした。これはなかなかない、ちょっとレアなことです。記念にもう一回飲み物をチューっとしました。
「そう言われてみれば、確かにいくらクエストで戦って傷ついても、痛みを感じた記憶がない。あぁ、クエストってのは任務?とか課題?とか、そんなイメージのもののことなんだけど。それにしても、なぜ今までそんなことに気づかなかったんだろう」
「夢では不思議なことも不思議じゃないからです!」
「んー、まあ分かったような分からないような。ただ、これで今後もドラゴンと安心して戦えるということだな」
「え!? ドラゴンさんと戦うんですか!?」
「ああ」
「あんなに大きいのに、絶対勝てないです! 上に乗っかられただけで、きっと負けちゃいます!」
ヒーローの人は「はぁー」とためいきをつきました。わたしは何か変なことを言ってしまったでしょうか?
「あのな、俺は一発逆転を狙ってるんだ。ヒーローになるには死ぬほ努力して、町からヒーローとして認められなくちゃならねえ」
「ヒーローさんになるのは大変なんですね」
「その通り。だがな、普通はいくらこつこつ通常クエストをクリアしたところで、ヒーローにはなれねえ。ヒーローはドカンとでかいクエストをクリアして、誰もが認める功績を残さなくちゃならねえ」
「ドカンと!」
「そう。だからチマチマへぼクエストなんかでわずかな経験値と金を稼いでいるんじゃ話にならねえ。だから俺はこの町を恐怖のどん底に陥れているドラゴンを討伐するクエストに挑戦し続けている」
「ドラゴンさんは悪い人なのですか?」
「悪いも悪い、極悪だな。山にでかけた人を襲うわ、たまに町に降りてきては暴れるわ。町の奴らはドラゴンが怖いのと同時に憎いってわけだ」
「あんなにかっこいいのに……」
「じゃあ俺は討伐に出かけるとするわ。じゃあな」
「まってください! ドラゴンさんに会いに行くんですか!?」
「そうだけど」
「じゃあわたしも連れて行ってください! もっと近くで見たいんです!」
「おまえ、話聞いてたか? 危険なんだぞ、子供なんかひとたまりもなくーーっと、これは夢だったな。おまえはお仕事とやらをしなくていいのかよ」
「んー」
わたしはうでを組んでなやみましたが、やっぱり楽しいことには勝てません。
「お仕事は、ドラゴンさんと仲良くなってからです!」
わたしはどうだ、と胸をはりました。
ヒーローの人は、「しかたねえな」と言って、わたしをおんぶして、外に連れて行ってくれました。
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