第16話 ヒーローの人6

 作戦の一番大事なところは、気づかれずにアミアミを出て帰ってくることです。つまり、作戦がバレない作戦を考えなくてはいけません。

 そこでわたしが考えた作戦はこうです。

 ヒーローの人がいつも来る方向から、横にちょっとずれた場所にあるアミアミの下の地面に、わたしとコドラさんが通れるくらいの大きさのトンネルを作ります。

 アミアミに直接穴をあけるのは、なんだかとっても悪いことのような気がしましたし、なによりヒーローの人に気づかれてしまうかもしれません。でも、ちょっと横にずれた場所にある地面のトンネルなら、きっと気づかないと思います。

 おじいちゃんは、原っぱの一番奥まで来ることはないので心配する必要はありません。

 とてもカンペキな作戦です。



「うんしょ、うんしょ」


 わたしは次の日から、コドラさんと一緒に穴をほりはじめました。最初はけっこう早くほれたような気がしたのですが、穴が大きくなってくると、なかなか進んでいないような気がしました。なんだか不思議な感じです。

 穴をほり進んでからは、コドラさんが穴をほって土を上に出す係、わたしが上に出た土をバレないようにいろんなところに運んでいく係になりました。

 なぜかというと、わたしよりコドラさんの方が大きいので、コドラさんの体が通れる大きさを自分でほってもらっているからです。わたしがほると、コドラさんの大きさよりも一回り小さな穴ができてしまいます。


 穴をほり始めてから3日目、またもや突然、ヒーローの人がやって来ました。

 しかも、わたしたちが穴をほっている時にです! 穴をバレないようにする作戦ばかりを考えていて、わたしたちがバレないようにする作戦を考えていなかったのです。全然カンペキな作戦ではありませんでした。

 ヒーローの人は、アミアミをムリヤリよじ登って、アミアミのこっち側にスタっとおりました。


「おうおまえら、随分大層なことしてんな。そりゃいったい何してんだ」

「え、な、なんでもないですよ~」

「なんでもないってこたぁねえだろ」


 ヒーローの人が口の下に手をあてて、あやしい感じでこっちをじーっと見てくるので、わたしは作戦がバレてしまうのではないかとドキドキしました。

 すると、ヒーローの人は何かに気づいたみたいに「ははぁん」と言いました。


「なるほどなるほど、わかったよ。コイツは俺も舐められたもんだな」


 や、やっぱりバレた!?


「こいつはあれだな。落とし穴だな?」

「へ?」

「トボケたって無駄だぜ。この前話していたときに何か違和感があったと思ったらそういうことか」

「…………」

「このチビドラゴンの家を荒らしに行ってる俺を、二人で協力して懲らしめようとしたってことだろ? でもそうはいかなかったな。子供の考えることなんて大人の俺からすれば、何でもかわいげのある遊びみたいなもんだからな」


 ヒーローの人はワハハハと笑いました。

 ヒーローの人が何か勘違いをしているみたいだったので、わたしはダンマリと何も言わないことにしました。何かをしゃべると、すぐに本当のことを言ってしまいそうだからです。

 わたしはウソをつくのが苦手なのです。すぐに顔に出てしまいますし、すぐに本当のことを言ってしまいます。


「じゃ、次からはもっとバレねえように作ることだな。俺はヒーローになるのに忙しいからそんなことに付き合ってる暇はねえけどな」


 そう言ってヒーローの人は手をヒラヒラさせながら歩いていってしまいました。


 トンネルの中では、わたしとヒーローの人のことなんて全然気づいていないみたいなコドラさんが、一生懸命トンネルをほり続けていました。

 もう土をどこかに運ばなくてもいいかな、と思いましたが、今はそれがわたしの係のお仕事なので、ちゃんと運んでおくことにしました。



 トンネルがアミアミの向こう側の世界とつながったのは、その日の夕方でした。

 コドラさんの顔だけが、モグラさんみたいにアミアミの向こう側から見えています。

 コドラさんがそのまま向こう側に出て行こうとしたので、わたしはアワアワしてしまいます。


「コ、コドラさん! ダメです! 今から行ったら暗いので道に迷っちゃいます!」


 コドラさんは『ググゥ』みたいな鳴き声を出して、仕方ないと言いたそうな感じでトンネルの中に戻っていきました。でも、なかなかこっち側にまでは戻ってきません。

 わたしはトンネルの中をのぞきました。暗いトンネルの中で、コドラさんの二つの目だけがキラリと光っています。でも、その目はなんとなく下を向いているような感じがしました。

 わたしはコドラさんを元気づけようと思いました。


「明日、お日様が出てから一緒に行きましょう。もしかしたら遠くなってしまうかもなので、朝早くから行きましょう!」


 下を向いていた目がゆっくりとこちらを向きました。

 コドラさんは少しこっちを見てから、そのまま進んできてトンネルからピョンと出てきました。

 そして、体をブルブルッとしました。きっと体中についてしまった土が気持ち悪いんだと思います。


「コドラさん、とってもお疲れさまでした。明日のために、今日はアツアツのお風呂にはいりましょう!」


 コドラさんはうれしそうに羽をバタバタさせながら、コジーンの方に向かって走り始めました。

 わたしもうれしくなって、コドラさんのマネをして手をバタバタさせながらコドラさんの後を追いかけました。


 わたしは、早く明日にならないかなぁ、と思いました。

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