第2話 ゲームの人2
ピカピカのフローリングの床は、ふわふわのクツシタと相性がバッチリでした。
わたしは足を床から離さず、滑るようにして男の人の真後ろに移動しました。
やっぱり男の人は何かに集中しているようで、こっちのことには、これっぽっちも気付きません。
背の低いわたしなので、後ろからでは男の人が何をやっているのかがハッキリとは分かりません。でも、どうやらわたしよりも背の低い小さなテーブルで、何かの作業をしているということは分かりました。
わたしは、男の人の真後ろから少しだけ頭を横に突きだして、男の人の前にあるものを見ました。
「あーー!!!」
わたしはカミナリに打たれたようか衝撃を受けました!
男の人がやっていたこと、――――それはゲームでした!
わたしも『ゲーム』という存在をうわさには聞いていました。
子供ならみんな大好きな遊びだと聞いていました。
けれども、わたしはそれを見たこともやったこともなかったので、一度でいいからやってみたいと思っていたのです。
もうこの時には、呪文の事など頭の中からすっかり消えてしまいました。
「わたしにもやらせてください!!」
わたしはゲームの人の横に立って、顔をみて、はっきりとそう言いました。
ゲームの人の横顔を見た印象は『眠たそう』でした。
今現実では寝ているはずなのに『眠たそう』というのは、この世界ではあまり良いことではありません。現実の世界で何かイロイロむつかしいことがある証拠です。
でも、今のわたしにとってそんなことは、おいしいスイカが『野菜』なのか『くだもの』なのかという争いと同じくらいどうでも良いことでした。
今はゲームのことで頭がいっぱいです。
でも、そんなわたしの気持ちなんて知らないように、ゲームの人はひたすらゲームを続けています。
こっちをチラリとも見てくれません。
わたしは困ってしまいました。
ゲームをやるには、ゲームの人が手に持っているものを貸してもらう必要があるからです。
わたしはゲームの人の服の袖を引っ張りました。
「んーーー! わたしにもやらせてーー!」
ゲームの人はそれでもゲームを続けました。
それでも成果はありました。
機械から手元のものへつながっている線とは別に、男の人の顔の方へ伸びているもう一つの線があることに気が付いたのです。
髪の毛の陰に隠れて見えていませんが、あれはきっと耳に付けて音楽をきくイヤホンだと思いました。
前に、音楽の人に会った時に教えてもらった機械です。
そのイヤホンをつけていると、外の音があんまり聞こえなくなってしまいます。
わたしは、わたしの気持ちを伝えるために、イヤホンの線を思い切り引っ張りました。
「――ッ!?」
突然大きな音がゲームの画面から流れ始めて、わたしは少しだけびっくりしてしまいました。
そんな出来事があったにも関わらず、ゲームの人はなんにもなかったようにゲームを続けています。
わたしはゲームの人にもう一度話しかけることに決めました。
わたしの気持ちを知ったら、一緒にゲームをやらせてもらえるかもしれません。
「わたしにもゲームをやらせてください!」
「…………」
ゲームの人は黙々とゲームを続けています。ゲームの音が大きいので、もしかしたら聞こえていないのかもしれません。
わたしは大きく息を吸い込んで、できるだけ大きな声でもう一度話しかけます。ほとんど叫んでいるような感じです。
「わたしにもゲームをや――」
「やだ」
「――え?」
つぶやくような声でしたが、わたしのみみにははっきりと聞こえてきました。
わたし、実は、目と耳と鼻がいいことには自信があります。遠くのお店のカレーのにおいだってすぐにわかっちゃいます。でも食べ物はなんでも好きなので、なんとかバカって言われたことがあるのでベロには自信がありません。
わたしは持ち前の立ち直りのはやさでもう一度お願いをしてみます。
「わたしもゲームやりたいのでお願いします!」
こんどはちゃんと最後まで言えました。
おじぎだってちゃんとしました。
でもお返事はありませんでした。それどころか、ゲームをしている音がずっと続いています。
「いじわる……」
わたしはしょんぼりしてしまいました。
しかたない、やらせてもらえないなら、せめてゲームの人の隣に座ってゲームをながめよう。わたしはそう決めました。
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