第3話 ゲームの人3
わたしはゲームの人の隣に、ちょこんとセーザをしました。足をのばして座ってしまうと、テーブルの高さと目の高さが同じくらいになってしまってゲームが見づらいからです。
ゲームの人がやっているのは、たたかいのゲームでした。きれいな女の人とおっきなパンダさんがたたかっています。
わたしは当然パンダさんが勝つと思いました。
あんなに大きなパンダさんに人間が勝てるわけがありません。わたしがクマさんにおそわれたらと思うと、こわくて何かおなかの下の方がむずむずしてしまいます。
きっとあの女の人もこわいと思いながらたたかっています。
だからわたしは、女の人を応援することに決めました。
「ガンバレガンバレー!」
ちょうど攻撃を受けて倒れていた女の人は、わたしの応援を聞いてすくっと立ち上がり、反撃を始めます。
「きゃーっ! 負けないでー!」
飛び跳ねたりパンチをしたりキックをしたりする女の人につられて、わたしも思わずピョンピョン飛び跳ねたりしてしまいます。
ひとしきり動き回ったところで、突然なぞのおじさんの声が聞こえて、画面に英語が出てきました。
『ケェィオォゥ』
見ると、女の人は倒れたまま動かなくなっていました。
そこで、わたしは応援していた女の人が負けたのだとわかりました。
「オォゥ……」
ゲームだとわかっていても、なんだかとっても悲しい気持ちになりました。
ゲームに負けるのがこんなに悲しい気持ちになるとは知りませんでした。
うわさでは、夢中になって時間を忘れてしまうほど楽しいと聞いていましたが、それはちょっぴりウソが混ざっていたみたいです。負けたらぜんぜん楽しくありません。
ぼーぜんと画面を見ていると、すぐにまた新しいたたかいが始まりました。
わたしは、それから何回も何回も試合を見続けました。
ゲームの人は、時々ぼそぼそとイライラしているような声を出しましたが、わたしのことはちょっとも気にしていない様子でした。
ゲームにはいろいろなキャラクターが登場しました。お侍さんやロボット、空を飛ぶ人や怪獣まで、いろいろなキャラクターが登場しましたが、片方は必ずわたしの応援していた女の人でした。だから、わたしはずっとその女の人を応援していました。
だけど、女の人は一度だってたたかいに勝つことができませんでした。
わたしなりに考えて、応援をやめてみたり、小声で応援したり、いろいろな方法をためしましたが、効果はありませんでした。
ゲームをよく知らないわたしでも、何回も見ているうちにルールがわかってきました。そのルールのうちの一つが、画面の上にあるボウがなくなったら負けという事です。きっとあれは「頑張れる気持ちがどれだけ残っているのか」ということだと思います。
いろいろなルールが分かれば分かるほど、少しずつわたしの応援にも熱が入ってしまい、ここにきた目的を思い出すことも無くなっていきました。
「あとちょっと!」と何回叫んだことでしょう。
でも、そのあとちょっとがどうしてもうまくいきません。
いいところで負けてしまうのです。
さすがのわたしも少し疲れてしまいました。
いつからか立ちっぱなしだったので座ろうと思いましたが、セーザではもっと疲れてしまいます。
でもセーザでなければ、テーブルのせいでゲームが上半分になってしまいます。
何か座るものがないかとお部屋を見回しますが、広いばっかりで何にもありません。
とうぜん座れそうなものもありません。
少し考えて、わたしはメーアンを思いつきました。ちっちゃなわたしにぴったりの、丁度いい特等席があるではないですか。
「おじゃまします!」
わたしはちゃんと挨拶をしてから、何を話しかけても反応が返ってこなくなっていたゲームの人のうでをくぐります。
そして「よいしょよいしょ」と特等席につきました。
ここからならば真正面からゲームを見ることができます。
わたしが見つけた特等席とは、ゲームの人があぐらをかいた足の上でした。
「わぁぁ」
特等席に座ると、なんだか自分がゲームをしているような感じもしてきました。なぜなら、少し伸ばせば、ゲームの人が手に持っているものに手が届くからです。
でも、わたしはそれをうばったりはしません。
こういう特別なことは、いい子にしていないとやらせてもらえないからです。
わたしはウキウキした気持ちで応援を再開しました。
でも、なぜか女の人の動きがさっきまでよりも弱々しくなっているように感じました。
さっきまではどんな人が相手でも、必ずいいところまでいっていたのに、今回は攻撃を受けてばっかりです。
やがて女の人の頑張れるボウが無くなってしまいました。相手のボクシングの人のゲージはこれっぽっちも減っていません。
『プァーフェクト!』
もはや聞き慣れたおじさんの声ですが、今回は初めて聞く英語でした。
その直後、世界が大きく揺れ、地面がひっくり返るような感じにおそわれました。
地震!?
と思うのとほとんど同時に、わたしのおしりがストンと床に落ちました。
わたしの周りに落ちてきた影を追うように上を見上げると、地震の原因はただ単にゲームの人が立ち上がっただけだということが分かりました。
「えっと――」
ようやく話を聞いてくれる気になったのかな、と思って声を掛けようとましたが、驚くことにゲームの人の声がわたしの声に重なって、わたしの言葉をかき消しました。
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