第13話 ヒーローの人3


 ダメでした。

 ドラゴンさん、怖すぎです。

 

 ヒーローの人に連れて行ってもらったのは、山の中でした。集会所からずーっと歩いて、やっと着いたと思ったら、すぐにドラゴンさんは火をブーッと吹いてきました。

 ヒーローの人が、わたしをおんぶしたままさっとよけてくれたのでなんとか生きていられました。

 でも、その後「おまえはどこかに隠れておけ。俺はあいつを討伐する」と言ってヒーローの人は一人で行ってしまいました。

 ダメだったのはここからです。

 ドラゴンさんはシッポを振ったり、大きな羽をバタバタさせたり、いろいろな攻撃をしていましたが、どれも強すぎて、隠れていたって危ないんです。

 飛んだり跳ねたり、わたしはずっと走って隠れて走って隠れてをやっていました。たまにドラゴンさんに話しかけてみましたが、すぐに攻撃されてしまうので、ずっとドキドキしていて、ドラゴンさんと仲良くなれるどころか、お話できることもありませんでした。

 こんなに怖いドラゴンさんは、きっと怒っているんだな、と思いました。だから、いつか仲良くなれるかもしれませんが、今はダメだと思ったんです。



 ヒーローの人は、ドラゴンさんからなんとか逃げ切って集会所に戻ってから、お酒を飲んでいました。

 お酒というのは、大人の人だけが飲めるという、怪しいジュースです。飲んだ人の性格を変えてしまうほどの力を持った飲み物なので、わたしは魔女さんが作った飲み物ではないかと思っています。

 ヒーローの人が、大きなコップを机に大きな音を立てて置くと、机にぐでーっとなりました。


「ったくよぉ、なんで勝てねぇんだよぉ」


 ヒーローの人が無理やりな格好からお酒を飲んだので、わたしも小さなコップでジュースをゴクッと飲みました。


「おぉい、ちいせぇの、俺の金なんだから、大事に飲めよぉ」

「はーい」


 わたしが返事をしてグレープフルーツジュースをテーブルに置くと、銀色のコップに、鏡みたいな感じで人が近づいてくるのがうつりました。


「おう、また負けたんだってな」

「あぁ? あぁ、おまえか」

「経験値稼がねえからだろ。今度俺と一緒に稼ぎいいところに行くか?」


 その人は筋肉がムキムキで、強そうな剣を背中につけていました。わたしは見たことがない人でしたが、ヒーローの人は知っているみたいでした。


「いちいちうるせえんだよ、おまえはよぉ。いいか? このちいせぇのさえいなけりゃ、今回こそは勝てたんだよ」

「まーた言い訳か? 子供の小ささよりもおまえの心の小ささを気にした方がいいと思うぞ」


 ここで、ムキムキの人は、わたしに向かって声をかけました。


「にしても、大変だったな、こんなバカに付き合ってドラゴン討伐に参加させられちまうなんてよ。よく生きてたってもんだ」

「わたしがドラゴンさんと仲良くなりたいと思ったから、連れて行ってもらったんです。でも今回はダメでした……」

「ハハハハハ! ドラゴンと仲良くって? そりゃすげえ!」

「こいつが隙を見てはドラゴンに話しかけようとするから、邪魔で仕方ねぇってんだよ」

「おぉ、マジで仲良くなろうとしてたのか」

「はい。次こそはきっと仲良くなれると思います」

「いぃや、次はもうつれてかねぇぞ」


 ガーン。


「えぇ! そんなぁ!」


 わたしはショックでした。あんなに遠いところまでひとりで歩くことはできません。

 ムキムキの人にも頼んでみる事にしました。


「わたしをドラゴンさんのところに連れて行ってください! お願いします!」

「ホンキのところわりぃけどな、俺もさすがに命が惜しいんだわ。このバカとは違ってな」

「うっせぇ、ヒーローになるには一発逆転するしかねぇんだよ」

「逆転逆転って、おまえはいっつもそうだけどな、現実を見ろって話だよ。こんな小さな子供を――――子供か!」

「あ?」

「おい、子供、いい案があるぞ。もしかしたらドラゴンと仲良くなれるかもしれねえ」

「え! ほんとですか!?」

「おいおい、なんだその裏技。そんなんがあるなら俺にも教えろよ、隙をついてブッ倒すからよぉ」

「いやいや、そういうんじゃなくて。ほら、あの集会所裏の道を少し行ったところにある――」

「あぁ、あの効率悪ぃクソクエかよ。アレはドラゴンとは言わねえんだよ」

「いやいや、確かにドラゴンだったはずだ」

「まぁちょうどいいかもな」

「なら決まりだな。俺が連れてっとくわ。あそこはこういうたぐいの子供も受け入れてるだろ?」

「むしろそっちが本業だろ」

「それもそうだったか。とりあえず主人には俺から話付けとくから、おまえもたまには面倒見にいけよ?」

「めんどくせぇ。まぁ行くけどよぉ」

「そうと決まれば今すぐ出発だ。酒飲みの相手は子供に悪影響を及ぼしかねねえからな。ついてこい」


 ムキムキの人はズンズンと歩き始めました。


「じゃあな、ちいせぇの。元気でやれよ」

「え? え? んー、さようならー」


 わたしはたくさんのハテナを頭に浮かべたまま、ムキムキの人について行きました。

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