概要
その声は「檻」となり、彼を閉じ込める。その声を放ち、異質な存在と扱われることが恐ろしい。
しかしその声に歌を乗せれば、たちまちに「翼」となる。規格外の才能と、鬱屈した表現への渇望。
彼の歌は魔法だった。歌えば、どんな感情だって、どんな情景だって、表現できるのだ。
彼は、その声にすがる。歌うことで、世界と繋がろうと足掻く。
その唯一無二の歌声はインターネットの海原から見出され、瞬く間に日本中に知れ渡る。
彼は何を望んだのか。名誉?栄光?巨万の富?どれでもない。
ただ彼は、「ありのままの自分」でいたかった。しかし、そのためには歌い続けるしかなかったのだ。
16歳の少年の苦悩。才能と呪い。他者との分
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!歌える声があるならば、歌わずにいられない。翼があるから高みへ行く。
声を出すことにためらいを抱える少年・朝比奈優は、日常の中では人との距離を測り続けている。彼にとって声は、他者と繋がるためのものではなく、むしろ壁となって立ちはだかる存在だった。しかし、歌った瞬間、その声は意味を変える。押し殺すしかなかった声が、感情を運び、誰かの心に届いていく。
物語は、家庭や学校、そしてネットの世界という複数の場所を行き来しながら、優が自分の居場所を探していく過程を静かに描いている。父から受ける技術的な指導や、動画投稿を通じて寄せられる反応は、歌う喜びだけでなく、才能と向き合う重みも伝えてくる。一方、学校では善意ゆえの距離が描かれ、その優しさが孤独を深めてしまう様子が印象…続きを読む - ★★★ Excellent!!!愛しい揺れ、小さな漣。波はうねりとなり、世界を揺らすか。
日常の隣にあるようでいて、特別な世界。
そしてその世界はひとりの「人間」に詰め込まれたすべて。
彼の青春は、窮屈で息苦しい。
それもまた彼がひとりの「人間」であるからこその抑圧で
だからこそ避けられない。
幸福も、痛みも。息苦しさも、自由も。
ひとりの「人間」にはこれだけの「ドラマ」が詰め込まれているのだと
鮮烈な発見を得るのです。
読む手が止まりませんでした。
主人公の人生においては「一瞬」かもしれない「青春」の瞬間。
そこに立ちあえることを幸運に思えるほどのリアルがここにあります。
作者様の書かれる世界に出会えてよかった。
心からそう思える作品です。 - ★★★ Excellent!!!悲劇から生み出された祝福が少年の青春をどう変えていくのか
前作「サイバーパンク・フットボールーバロンドーラーは、AI社会に中指を突き立てる」で金の卵に選出され、”AIと人間性とのせめぎ合い”という一石を投じた作者が、
少年に与えられた悲劇、そして、そこから生み出された楔であり祝福ともいえる”声”を「カストラート」という18世紀ヨーロッパのオペラ界を支えた文化になぞらえて紡ぐ。
少年が周囲の人間と、どのように青春を送り成長していくのか、そして、彼の声が彼に与える物はいったいなんなのか。
常に独自の視点で、主人公の人生を見つめるこの作家のメインストーリーが素晴らしい。
今後の展開が楽しみでならない一作です。