本作を読み、まず印象に残るのはその優しい筆致でしょう。
夏の涼しいそよ風に、孤独を与える雨。そういった夏の田舎町を丁寧に描写することで、とある少女の目線がまざまざと思い浮かべられます。
彼女は心に深い悲しみを宿しており、そんな彼女の心を繊細なタッチで描くことにより、物語の展開はより印象的に、より深みを増して展開していく。
そして彼女を捉える複数の眼差しはその少女時代を象徴的に照らし出してくれるのです。
登場人物一人一人の心にそっと触れるような形で、本作は「孤独」や「不幸」といった普遍的テーマに立ち向かう作品のように思われました。
また随所に散りばめられた異空間のような明晰夢の描写は空恐ろしく、まるで読者を作品の中に手招くようでした。
そういうわけですから、とても立体感のある、そしてどこか懐かしい作品だと私は考えます。
前編のラストまで読了させていただきました。情景や心情の描写がとても美しい文言で描かれています。しっとりとした繊細な文体は、作者様の持ち味ですね。特に、前編のラストシーンは読ませます。素晴らしいと感じました。
主人公の祈李の抱える“闇”と、それを知っている周囲の人々の複雑な感情がリアルで、“愛”と“哀”、“憎”がなんとも言えないバランスで共存しています。この感覚はかなり独特だと思います。
ストーリーは、真っ直ぐではなく、ゆっくりじわじわと円を描くように進んでいきます。
全体的に、どこからか不安や哀しみが滲み出てくるようで、思わず読み進めるのを躊躇ってしまうような、そんな雰囲気があります。
怖いけど、前に進まずにはいられない。
そんな肝試しの好きな読者にはぶっ刺さるでしょう。
少し読みにくいなと感じたところも書いておきます。
登場人物に女性が多く、基本的に一人称での進行で、度々語り手が変化するため、誰が話しているのかわからなくなるシーンが多々あります。私はそこで少し迷ってしまったので、話者の切り替わるタイミングがわずかにわかりやすくなると、さらに読みやすくなるように感じました。
このあたりが少しだけ整理されると、同じように雰囲気を楽しみつつ、より多くの読み手がストレスなく最新話まで辿り着きやすくなるのではないかと思います。
上記を踏まえ、★2つとさせていただきました。
後編は、読むのに勇気が必要なので、メンタルが万全のときにまた読ませていただきます。
読み応えのある作品と出会わせていただき、ありがとうございます。