第22話 影の崩壊
村上修一の証言を収録した芹沢と斉藤は、再開発計画の真相に迫る最後の鍵を手に入れた。しかし、その情報が公にされる前に、残された敵の力が全ての証拠を潰そうと動き始めていた。
工場跡を脱出した二人は、村上の証言を元に新たな動きを模索していた。車内では、村上の声が記録されたボイスレコーダーの再生が続いている。
「再開発計画は単なる都市の開発ではありません。裏では、複数の利権団体が暗躍し、政治家や大企業が絡んでいる。川村紗英は、その利権構造の中核部分に気づき、それを阻止しようとしたんだ。」
村上の声は震えていたが、その内容は具体的で鮮明だった。彼の説明によると、川村紗英は再開発地での不正な土地取引の証拠を握り、計画を止めようとしていた。しかし、大山家とその協力者たちは、紗英を「消す」ことで口封じを図った。
芹沢はレコーダーを止め、資料に視線を移した。
「これで紗英さんの失踪事件と再開発計画が一本の線で繋がりました。そして、その線の先にいるのは……大山重信。」
斉藤は鋭い目つきでハンドルを握りながら言った。
「つまり、奴が全ての黒幕というわけだな。」
そのとき、芹沢の携帯が鳴った。ディスプレイに表示されたのは、信頼する記者・佐藤真希の名前だった。
「芹沢さん、今すぐ逃げてください!」
真希の声は緊張に満ちていた。
「大山家があなたたちの動きを察知し、報復に出ました。今、捜査本部にも圧力がかけられていて、証拠が押収される危険があります!」
芹沢は眉をひそめながら斉藤を見た。
「予想以上に早い反撃ですね……。」
斉藤は舌打ちしながらアクセルを踏み込んだ。
「だが、こちらもただ逃げるつもりはない。どこに向かう?」
芹沢は冷静に言った。
「メディア本部です。この証拠を彼女に託し、世間に公表します。それが奴らを止める唯一の方法です。」
メディア本部に向かう途中、二人の車を黒いSUVが追いかけてきた。数台の車が列を成し、まるで猛獣が獲物を狩るように追跡してくる。
「しつこい奴らだ……!」
斉藤はカーブを切りながらSUVを振り切ろうとしたが、敵の車は執拗に食らいついてきた。そのとき、芹沢が後部座席のバッグを漁り、小型の発煙筒を取り出した。
「これを使います。」
窓を開けた芹沢が発煙筒を点火し、敵の車の前に放り投げた。真っ白な煙が広がり、視界が遮られたSUVが急ブレーキをかける。
「ナイスだ、芹沢!」
斉藤が叫びながら車をさらに加速させ、敵の包囲を抜け出した。
ようやくメディア本部に到着した二人は、佐藤真希に全ての証拠を手渡した。彼女は緊張した面持ちで資料を確認し、すぐに行動を開始した。
「これを元に記事をまとめ、全てを世間に公表します。だが、その前に奴らがここに現れる可能性が高い。」
その言葉通り、大山家が雇った黒服たちが建物周辺を取り囲んでいた。芹沢は記者たちと真希を守るために、斉藤と共に防衛戦に臨む決意を固めた。
「時間を稼ぎましょう。その間に記事を完成させてください。」
真希は力強く頷き、スタッフたちとともに作業を急ぎ始めた。
黒服の男たちが建物内に突入しようとする中、斉藤が銃を構えて迎え撃った。芹沢は敵の心理的な隙を突くため、ビルの各階に仕掛けた罠を起動させた。
「侵入者が多数いると見せかけて、彼らを混乱させます。」
エレベーターや階段からスピーカーを通じて流れる偽の足音や声が、黒服たちの動きを鈍らせた。その間に、斉藤が一人ずつ確実に敵を無力化していく。
ついに真希の手によって記事が完成し、メディアを通じて世間に公開された。再開発計画の裏に隠された不正と、川村紗英の失踪事件に関する全ての真実が明らかになったのだ。
ニュースが流れると同時に、大山家への批判が一気に広がり、計画に関与した政治家たちも追及されることとなった。
建物の中でニュースを見届けた芹沢は、静かに目を閉じた。
「これで終わりましたね。」
斉藤が疲れた表情で肩をすくめた。
「終わったかどうかはわからんが、少なくとも奴らを黙らせるには十分だ。」
エピローグ
数日後、大山重信は逮捕され、再開発計画は完全に凍結された。川村紗英の失踪事件も解決に向かい、真実を求めた彼女の勇気が再評価されることとなった。
芹沢と斉藤は、川村紗英の家族を訪ね、彼女の正義を讃えながら、静かにその魂に祈りを捧げた。
次回予告
新たな事件が、芹沢孝次郎を待ち受ける。人間の心の奥底に潜む真実を追い求める探偵の物語は、まだ続く――。
次回、「沈黙の告白」――真実を紡ぐ者たちの新たな物語。
読者へのメッセージ
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました! 物語はクライマックスを迎え、正義が勝利を収めました。次回作も鋭意執筆中ですので、ぜひ楽しみにお待ちください! あなたの感想やコメントを心よりお待ちしています。
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