第15話 心理学で切り開く突破口

夜も更け、芹沢孝次郎と斉藤康隆は、車を安全な場所に停めた。二人は追っ手を完全に振り切ったかを確認するため、周囲の様子を伺っていた。


「斉藤さん、ここで少し時間をください。この状況を整理してみます。」


芹沢が冷静な声で告げると、斉藤は疲労を隠せない顔で頷いた。


「わかった。お前の頭の中を信じるしかないな。」


芹沢は手元の資料を広げ、敵の行動パターンや計画の裏にある心理的要素を分析し始めた。彼の目が細かい書類やメモを追うたびに、考察が形を成していく。


「黒服の男たちが追跡を執拗に続ける理由は、大山家からの命令だけではありません。」


芹沢は手元のメモに目を落としながら話し始めた。


「彼らの動きには明確な焦りが感じられます。単に計画を隠そうとしているだけではなく、何か『時間制限』があるようです。」


斉藤が眉をひそめた。


「時間制限だと? 具体的にはどういうことだ?」


「例えば、この再開発計画が公になる前に、中央政界や大山家内部で何らかの合意が成立するタイミングが迫っている可能性があります。それを阻止されると、彼らの利権構造が崩壊する。」


芹沢は静かに指でテーブルを叩きながら、敵の心理を追った。


「彼らは焦るほどに、行動が直線的になる。つまり、次の動きもある程度予測できるのです。」


「次の動き……?」


芹沢は資料に記された『北城倉庫』と『中央銀行理事長』というキーワードを指差した。


「彼らが今、もっとも優先して守るべきは、計画の資金源である地方銀行の理事長。そして、その動きが本格化する場所がこの倉庫付近に存在するはずです。」


「だが、敵の心理を突いて逆にこちらが優位に立つことも可能です。」


芹沢は紙とペンを取り出し、簡単な図を描きながら斉藤に説明を始めた。


「心理学的に、追い詰められた人間は、自分の強みがある場所に引き返す傾向があります。彼らにとっての『強み』とは、この計画の中枢を守ること。つまり、地方銀行や北城倉庫周辺を重点的に警戒するはずです。」


斉藤は図を見ながら口を開いた。


「そこに何か仕掛けるのか?」


「そうです。例えば、偽の情報を使って彼らを攪乱する。彼らが計画の核心を守るために動けば、我々が他の証拠を押さえる時間を稼げます。」


芹沢はさらに言葉を続けた。


「彼らは恐怖を抱いています。恐怖心を刺激すれば、行動が読みやすくなる。逆にこちらの目的をカモフラージュする余地が生まれるのです。」


斉藤はその案に感心しながらも、少し疑念を抱いた。


「だが、具体的にどうやってその偽情報を流す?」


芹沢は一瞬考え込んだ後、微笑みを浮かべた。


「先ほど、記者に託した資料のコピーの一部を、あえて黒服の手に渡すよう仕向けます。」


「情報を敵に流すのか?」


「はい。だが、それは我々が選んだタイミングと場所で行います。『失敗したと見せかける』ことで、彼らの注意をそらすのです。」


芹沢と斉藤はその場で作戦を練り上げ、行動に移す準備を始めた。


「まずは、倉庫周辺で彼らの動きを観察しましょう。焦るほどにミスを犯しやすくなるのが人間です。私たちの狙いは、その一瞬の隙を突くこと。」


芹沢の言葉に、斉藤は拳銃を確認しながら力強く頷いた。


「お前が考える通りになるなら、奴らを追い詰めることができる。だが、危険な賭けだな。」


「正義には時に賭けが必要です。」


二人は車を走らせ、北城倉庫付近の偵察を開始した。


倉庫周辺に到着すると、黒服の男たちが周囲を警戒しながら動いているのが見えた。芹沢は遠くからその様子を観察し、彼らの行動に心理的なパターンを見出していく。


「彼らは集中的に倉庫内の特定エリアを守っています。おそらく、ここが彼らにとってもっとも重要な拠点でしょう。」


斉藤が双眼鏡を下ろしながら言った。


「だが、その守りが堅い場所にどうやって近づく?」


芹沢は冷静に答えた。


「それが私の役目です。」


斉藤が驚いた顔で芹沢を見つめる。


「お前、まさか一人で突っ込むつもりか?」


芹沢は静かに頷き、目を細めた。


「私は心理学者です。彼らの恐怖や焦りを利用して、彼ら自身に情報を引き出させます。」


斉藤は芹沢の肩を掴み、力強く言った。


「無茶をするな。お前がここで倒れたら、全てが終わるんだぞ。」


「わかっています。しかし、彼らの中枢に触れるには、心理的な罠を仕掛ける必要がある。私がその囮になります。」


芹沢の冷静な決意に、斉藤は言葉を失ったが、最後には頷いた。


次回予告


心理学者としての能力を駆使し、敵の心理を操ろうとする芹沢。一方、斉藤は彼の背後を守りながら、計画の核心に迫る。果たして二人は、この巨大な陰謀を崩す糸口を掴むことができるのか?

次回、「揺れる巨塔」――心理戦の先に待つのは、光か闇か。


読者へのメッセージ


芹沢の心理学がいよいよ敵との戦いにおいて本領を発揮します! 人間の心理を操る戦いが、物語をさらに盛り上げるでしょう。次回もご期待ください! ご感想やコメントをお寄せいただけると嬉しいです。

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