第16話 心理戦の幕開け
北城倉庫付近に到着した芹沢と斉藤は、車を倉庫から数百メートル離れた目立たない場所に停めた。周囲を黒服の男たちが警戒する中、芹沢はじっとその様子を観察していた。
「斉藤さん、敵の配置を見てください。彼らの動きには焦りがにじみ出ています。」
芹沢がそう言うと、斉藤は双眼鏡を覗き込み、敵の配置を確認した。
「確かに。守りを固めているはずなのに、動きが雑だな。」
芹沢は頷きながら続けた。
「恐らく、彼らの上層部が結果を急かしているのでしょう。この状況では、通常よりもプレッシャーがかかり、判断ミスを誘発する可能性が高い。」
「それを利用するつもりか?」
「はい。そのために少し準備が必要です。」
芹沢は車内に持ち込んだバッグを開け、中から小型の無線装置やボイスレコーダー、さらに赤いマーカーを取り出した。それを見て斉藤が首をかしげた。
「それは一体……?」
「これで心理的な混乱を引き起こします。彼らにとって、もっとも恐れるべきは『内通者の存在』です。組織に亀裂を生じさせることで、彼らの動きを崩します。」
芹沢は倉庫の近くまで身を潜めながら、小型無線を建物の隠れた場所に設置した。その無線は、黒服たちの周波数に合わせて疑似的な通信を流すようにプログラムされていた。
「内部の誰かが裏切り者として疑われれば、彼らの連携が崩れます。」
さらに、倉庫の外壁に赤いマーカーで特定の記号を描き始めた。それは、内部で使われている暗号と似せたものだった。
「この記号を見たら、彼らは内部にスパイがいる可能性を疑い始めます。」
斉藤は慎重に芹沢を見守りながら、問いかけた。
「だが、敵がそれに気づいたらどうする?」
芹沢は冷静に答えた。
「気づかせるのが目的です。焦りと恐怖が、彼らを崩壊に導く鍵になります。」
数分後、芹沢が仕掛けた無線が作動し始めた。その音声は、敵の内部の誰かが密かに警察に情報を流しているように聞こえる内容だった。
「こちら、コードアルファ。計画の核心情報を手に入れた。すぐに次の指示を頼む。」
倉庫周辺の黒服たちは、その音声をキャッチして動揺し始めた。一人の男がリーダーに駆け寄る。
「リーダー! 内部に情報が漏れている可能性があります。」
「何だと? 誰がそんなことを……?」
さらに、外壁に描かれた赤い記号を見つけた男たちが、口々に騒ぎ出した。
「この記号……内部の合図じゃないか?」
「誰が描いたんだ?」
彼らの間に疑心暗鬼が生まれ、連携が徐々に崩れていくのが見て取れた。
3. 隠された扉へ
その間に、芹沢と斉藤は倉庫の裏手に回り込んでいた。敵の注意が表側に集中している今が、唯一のチャンスだった。
「ここだ……。」
芹沢が指差したのは、倉庫の裏手に隠された小さな扉だった。斉藤がそれを調べると、古びた南京錠で封がされているだけだった。
「意外と手薄だな。」
斉藤が南京錠を工具で切断し、中に入ると、薄暗い倉庫内部が広がっていた。その奥には、デスクと複数のファイルが散乱していた。
「ここが……?」
芹沢はデスクに駆け寄り、手早くファイルを調べ始めた。その中には、大山家の資金の流れを示す詳細な記録とともに、計画に関与する政治家や企業の名前が記されていた。
「これだ……! 証拠の核心部分がここにある。」
芹沢がファイルを手に取った瞬間、背後から声が響いた。
「動くな。」
振り返ると、黒服の男が銃を構えて立っていた。その表情には、先ほどまでの動揺が消え、冷徹な意志が宿っていた。
「お前たちがここに入ることは計算済みだ。」
芹沢は一瞬の緊張の中で冷静さを保ち、男に向き直った。
「あなたたちの計算は間違っていない。だが、こちらも手ぶらではありません。」
芹沢は懐からボイスレコーダーを取り出し、それを見せつけた。
「これには、あなた方のリーダーが密かに取引をしている音声が録音されています。どうします? これを上層部に見せたらどうなると思います?」
黒服の男の目が揺らぎ始める。
「そんなはずは……」
「疑うのは当然です。しかし、この場で確認する方法はありませんね。あなたが選べる道は二つ。私たちを黙って見逃すか、それとも、あなた自身が裏切り者として疑われるか。」
その言葉に、男の手が震え始める。斉藤がその隙を見逃さず、素早く銃を抜き、男の武器を叩き落とした。
「勝負ありだ。」
芹沢は静かに男を見下ろしながら言った。
「恐怖と疑念は、時に最も強力な武器になります。」
次回予告
倉庫で得た新たな証拠は、大山家の計画の核心に迫る鍵となる。しかし、黒幕の影はさらに濃く、二人に新たな危機が迫る。
次回、「影の支配者」――真実を守るための最後の戦いが幕を開ける。
読者へのメッセージ
今回も最後までお読みいただきありがとうございます! 芹沢の心理学を駆使した作戦が功を奏し、新たな展開が待っています。次回もハラハラする展開にご期待ください! コメントやご感想をお待ちしています!
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