第17話 黒幕の影

夜が更ける中、芹沢と斉藤は北城倉庫から手に入れた新たな証拠を抱えて、再び車へと戻った。芹沢が手にしたファイルには、大山家の資金の流れや関与する政治家、企業のリストが記されている。それを一目見ただけで、斉藤は顔をしかめた。


「これが本物なら、中央政界まで揺るがすことになるな……だが、これを公にするには慎重な準備が必要だ。」


芹沢は静かに頷きながら、資料をバッグにしまった。


「そうですね。彼らが何より恐れるのは、この情報が広がることです。しかし、私たちが行動を起こす前に、彼らも必ず反撃してくるでしょう。」


その頃、遠く離れた豪邸の一室では、大山重信が電話を握りしめていた。彼の目は鋭く光り、口元は冷たく歪んでいる。


「奴らが倉庫に侵入しただと? ……無能どもめ。」


電話の相手は北城倉庫を警備していた黒服たちのリーダーだった。彼らは芹沢たちに翻弄され、倉庫内部の一部を明け渡してしまったことを報告していた。


「失ったものがどれだけ大きいか分かっているのか? 今すぐ奴らを追い詰めろ。証拠が外に出る前に、奴らを消せ。」


電話を切った後、大山は立ち上がり、部屋の奥へ向かった。その先に待っていたのは、地方銀行の理事長である村上修一だった。


「村上、状況を聞いたな?」


「ええ。だが、まだ計画の全貌が外部に漏れたわけではありません。このまま奴らを黙らせれば問題はない。」


大山は険しい顔で村上を見つめた。


「お前が手を抜けば、計画は終わりだ。分かっているな?」


村上は緊張した面持ちで頷いた。


「もちろんです。すぐに動きます。」


一方、芹沢と斉藤は車を一時的に停め、次の行動を話し合っていた。


「この資料は新聞社に届けるべきです。だが、ただ渡すだけでは不十分です。彼らが独自に調査できるように、さらなる証拠を提供しなければ。」


芹沢が言葉を切ると、斉藤が渋い顔で答えた。


「その『さらなる証拠』とやらを集める間に、敵に追いつかれたら元も子もないぞ。」


そのとき、周囲の静けさを裂くようにエンジン音が聞こえた。芹沢が窓の外を見て小さく息を飲む。


「……来ましたね。」


暗闇の中から黒いSUVが二台、車を囲むように近づいてきた。


「逃げ場はないな。」


斉藤が拳銃を取り出し、芹沢に言った。


「お前は車から降りるな。俺が時間を稼ぐ。」


しかし芹沢は首を横に振った。


「いいえ、ここは心理戦で切り抜けます。敵の思考を利用しましょう。」


斉藤は疑問の表情を浮かべたが、芹沢の真剣な目を見て静かに頷いた。


「好きにしろ。ただし、危険だと判断したらすぐに動く。」


黒服の男たちが車から降り、銃を構えながら近づいてくる。芹沢は窓を下げ、冷静な声で話しかけた。


「お待ちしていました。」


その言葉に男たちが動きを止め、困惑の色を見せる。


「待っていた……だと?」


芹沢はバッグを取り出し、中から一部の資料をわざと見せた。


「あなたたちがこれを取り戻しに来るのは分かっていました。ただし、あなたたちのリーダー、大山重信がこれを望んでいるのかどうかは別問題です。」


「何を言っている?」


男の一人が苛立ちを隠せない様子で詰め寄る。


「大山家の計画にとって、この資料が表に出ることが致命的だと考えるのは当然です。しかし、これが取引の材料になるとしたら?」


芹沢の言葉に男たちが視線を交わす。斉藤は隙を窺いながら、緊張した表情で彼らの動きを見守っていた。


「取引だと? 何を言いたい?」


「簡単な話です。この資料を私たちが公にする前に、大山家が責任を負うべき人物を提示する。それができるなら、私たちも情報の扱いを考え直します。」


男たちはさらに困惑し、明らかに動揺していた。その隙を突き、斉藤が一歩前に出て銃口を彼らに向ける。


「お前らがここで無理に動けば、この資料は即座に第三者に渡る。どちらが得策か、よく考えろ。」


黒服のリーダーは一瞬躊躇したが、無線で指示を仰ぎ始めた。


「……了解した。一旦引き上げる。」


彼らはSUVに戻り、エンジンを再びかけてその場を離れた。


斉藤はほっと息をつき、銃を下ろした。


「……本当に退かせるとはな。だが、これで完全に安全とは言えないぞ。」


芹沢は微笑みながら資料を再びバッグにしまった。


「時間を稼げただけでも十分です。次は本格的に動きましょう。」


車に戻り、芹沢は次の目的地を告げた。


「地方銀行の理事長、村上修一がこの計画の資金源を握っています。彼を突き止めれば、さらなる証拠を得ることができるでしょう。」


斉藤は運転席でエンジンをかけながら言った。


「つまり、次の戦場はその村上ってわけか……準備はいいのか?」


「ええ。心理戦だけではなく、今度は物理的な証拠を手に入れる必要があります。」


二人を乗せた車は再び暗闇の中へ消えていった。新たな戦いがすぐそこに迫っていた。


次回予告


村上修一――計画の資金源を握る黒幕との直接対決が迫る。果たして芹沢と斉藤は、この巨大な陰謀の真実にたどり着けるのか?

次回、「資金源の秘密」――最後のピースを求めた追跡が始まる。


読者へのメッセージ


ご愛読ありがとうございます! 芹沢の心理戦と斉藤の行動力が再び力を発揮しました。次回は黒幕・村上修一との対決が描かれます。さらなる展開にご期待ください! コメントやご感想をお待ちしています!

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