第4話 隠された真実の断片
宮田崇の目撃情報が入ったとの連絡を受け、斉藤康隆は急ぎ捜査本部から指定された場所に向かっていた。情報によると、宮田らしき男性が市内の古びたアパートに出入りしている姿が目撃されたという。10年間、行方をくらませていた彼がなぜ今になって姿を現したのか――その理由を掴むことが、事件解決への鍵になることは明白だった。
車の中で斉藤は、達也の証言と宮田の行動を頭の中で整理していた。
「紗英が怯え、宮田も慌てた。その夜、何が起きた?」
その答えが、間もなく自分の目の前に現れるかもしれない。
目撃情報に基づいて到着したのは、市内の寂れた一角にある木造アパートだった。築年数は軽く50年を超えているように見える外観。壁はひび割れ、ところどころ塗装が剥げ落ちていた。
斉藤は無線で応援を呼び、慎重にアパートの周囲を確認した。張り込みを担当していた若い刑事が駆け寄り、状況を報告する。
「斉藤さん、今朝6時頃、50代くらいの男性がこのアパートの201号室に入るのを確認しました。その後、部屋から出てきた形跡はありません。」
「50代か……宮田の年齢とも一致するな。」
斉藤は視線を201号室の窓に向けた。カーテンが閉じられた窓の隙間からは、ほのかに灯りが漏れている。誰かが確かにそこにいる――それは間違いない。
「突入するぞ。準備を整えろ。」
刑事たちが武器を構え、アパートの外階段を静かに上がる。斉藤は息を整えながら、ドアの前に立ち、短くノックした。
「警察だ! 宮田崇さんですね? 中にいるなら返事をしてくれ。」
返事はない。代わりに、微かに部屋の奥で何かが動く気配がした。
「……中にいるのは分かっている。扉を開けないなら、強制的に入るぞ!」
斉藤が再び叫ぶと、ドアの内側から男の声が漏れた。
「……待ってくれ。扉は開ける……撃たないでくれ……」
その声は、疲れ切ったような低い音だった。刑事たちが警戒を続ける中、ドアが軋む音を立ててゆっくりと開いた。
現れたのは、痩せ細り、髭を伸ばした男だった。薄暗い部屋の中で見る彼の姿は、10年前の写真とは似ても似つかないほど変わり果てていた。やつれた顔に、怯えと諦めの色が浮かんでいる。
「……警察がここに来るとはな。」
男は薄い笑みを浮かべたが、その表情には何の余裕もなかった。
「宮田崇さんですね?」
斉藤が確認すると、男は無言で頷き、ヨロヨロと部屋の中に引き返した。
「話を聞かせてもらうぞ。」
斉藤が続けて中に入ると、部屋は散らかったままだった。テーブルの上には古びたノートと新聞の切り抜きが無造作に置かれている。新聞には、「川村紗英失踪事件」の文字が大きく見出しに書かれていた。
「……逃げるのはもう疲れたよ。」
宮田が椅子に座り込むと、肩を落とし、深い溜息を吐いた。その目は、まるで10年間押し潰されてきた重荷に耐えかねたような虚ろさを帯びている。
「あなたが何をしていたのかを教えてもらおう。川村紗英が失踪したあの夜、何があった?」
斉藤の問いに、宮田は顔を上げた。その目にはわずかに怒りと後悔が混じり合っていた。
「……彼女は、知ってはいけないことを知ってしまったんだ。」
「知ってはいけないこと?」
「そうだ。紗英は、大山家とその取り巻きが関わる……ある不正行為の証拠を見つけたんだ。」
斉藤は眉をひそめた。「不正行為?」
「詳細は分からない。ただ、計画書の中には、大山家がこの街で行おうとしていた再開発プロジェクトに絡む汚職や土地の不正取得についての記述があった。それを紗英は見てしまった。」
宮田は震える手で古びたノートを開いた。そこには手書きのメモやスケッチのようなものがびっしりと書き込まれていた。その中には、大山家の名前や、再開発プロジェクトに関する情報が記されている。
「彼女は、正義感が強すぎたんだ……。その計画書を持ち出そうとした。でも、それを許さない連中がいた。」
「連中とは誰だ?」
「大山達也……そして、彼の背後にいた父親だよ。」
宮田は硬い表情でそう言い切った。その声には恐怖が混じっている。
「紗英が消えた夜、私も脅された。『お前も沈黙を守れ』と。それができないなら、同じ目に遭うぞと……」
「それで逃げたのか。」
宮田はうなだれた。
「そうだ。私には、彼女のように戦う勇気がなかった……」
その時、不意に外から物音が聞こえた。何者かがアパートの廊下を歩く足音。重く、ゆっくりとしたその音に、斉藤と宮田は緊張を走らせた。
「何だ……?」
斉藤は素早く拳銃を構え、部屋のドアに向けて身構えた。その時、外から低い男の声が響いた。
「宮田崇、そこにいるな?」
「誰だ!」
斉藤が叫ぶと、ドア越しに聞こえたのは冷笑のような声だった。
「沈黙を破ろうとする者には相応の代償を……」
そして、ドアの向こうで激しい衝撃音が響いた。
部屋が緊張に包まれる中、ドアが激しく揺れ始めた。外にいる男は何者なのか? その目的は――宮田崇の命か、それとも真実そのものか?
斉藤が拳銃を構えたまま声を張り上げた。
「動くな! 中に入れば、撃つぞ!」
しかし、その言葉に返答はなく、代わりにドアが音を立てて壊れかけていた。事件の闇はさらに深まり、次回へと進む。
次回予告
沈黙を守る者、破る者、追い詰める者――。
ドアの向こうに立つ侵入者の正体とは何者か?
再び動き出す大山家の影、そして明らかになる川村紗英の最後の言葉。
次回、「闇に囚われた正義」――真実への代償が語られる。
読者へのメッセージ
最後までお読みいただきありがとうございます!
ついに姿を現した宮田崇。彼が語る「知ってはいけない真実」とは何だったのか。そして、突如現れた侵入者が物語をどのように動かすのか――
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