第8話 紗英の最後の足跡
捜査本部の会議室。斉藤康隆、宮田崇、そして芹沢孝次郎が計画書を囲み、それぞれの考えを巡らせていた。芹沢は計画書のページをじっくりと見つめながら、静かに話し始めた。
「紗英さんが何を見たのか、そしてなぜ命を危険にさらしてでも真実を明らかにしようとしたのか……この計画書は、その鍵を握っています。」
宮田は深くうなだれながら呟いた。
「俺がもっと早く行動していれば、彼女を守れたかもしれない……」
斉藤がその言葉に反応する。
「後悔だけでは真実は掴めない。宮田、お前が紗英と話した最後の会話を思い出してみろ。その夜、彼女は何を考え、何をしようとしていたのか?」
宮田は一瞬戸惑い、顔をしかめたが、やがて震える声で語り始めた。
「その夜、紗英は俺にこう言ったんだ……『もし私に何かあったら、この計画書を誰かに託して』と。」
宮田の言葉に、芹沢が鋭く反応した。
「計画書を託す? 彼女には具体的な計画があったのでは?」
宮田は頷きながら続けた。
「そうだ。彼女は計画書の一部をコピーし、それを別の場所に隠したと言っていた。ただ……どこに隠したのかまでは教えてもらえなかった。」
斉藤が深く考え込みながら問いかける。
「隠した場所の手がかりはないのか?」
宮田は一瞬記憶を探るように目を閉じた後、ぽつりと呟いた。
「……彼女は『交差点』という言葉を使っていた。具体的には分からないが……」
「交差点……?」
芹沢が眉をひそめた。
「交差点という言葉には、比喩的な意味があるかもしれませんね。物理的な場所だけでなく、選択や運命の分岐点を示すこともあります。」
斉藤はすぐに行動を起こす決意を固めた。
「まずはその言葉を手がかりに、紗英の行動を追う。彼女が最後に訪れた場所を洗い直そう。」
2. 紗英の携帯電話の履歴
捜査チームは紗英の失踪直前の行動を改めて分析し、彼女が失踪当日に使用していた携帯電話の位置情報を追跡した。その結果、彼女が最後に立ち寄ったとされる場所が判明する。
「ここだ。市内中心部にある廃校舎の跡地……?」
斉藤が地図を指差しながら説明する。廃校舎は10年前に閉鎖された建物で、大山家が再開発の対象として計画に含めていた場所でもあった。
芹沢が静かに口を開く。
「もし紗英さんが何かを隠すとすれば、人目につかず、かつ意味のある場所を選んだでしょう。この廃校舎がその候補だとすれば、重要な意味を持っている可能性があります。」
翌日、斉藤と芹沢は捜査員数名を連れて廃校舎へと向かった。廃墟と化した校舎は静まり返り、不気味な雰囲気が漂っている。建物内に足を踏み入れると、埃の匂いと風に揺れる窓枠の音が耳に入った。
「ここに紗英が来た……?」
芹沢は校舎の廊下を歩きながら、周囲の様子を注意深く観察する。廊下の片隅に置かれた古いロッカーに目を留めると、彼は手袋をはめて中を開けた。
「これは……」
ロッカーの中には、小さな封筒が置かれていた。封筒には紗英の名前が書かれている。
斉藤が封筒を受け取り、内容物を取り出すと、それは紗英が残したメモとUSBメモリだった。メモには、簡単な言葉が記されていた。
「真実を託します。これを公にしてください。」
その瞬間、校舎の外からエンジン音が聞こえた。斉藤が窓の外を見ると、黒いSUVが複数台停まり、複数の男たちが降り立っているのが見えた。
「くそっ、また奴らか……!」
斉藤は封筒を芹沢に手渡しながら指示を出した。
「芹沢さん、これを持って裏口から逃げてください! 我々が奴らを引きつける!」
芹沢は一瞬ためらったが、決意を固めて頷いた。
「分かりました。必ずこれを守ります。」
斉藤たちは銃を構え、校舎の正面で男たちを迎え撃つ準備を始めた。闇の勢力と正義の衝突は、いよいよ避けられない段階に突入する。
次回予告
紗英が残したUSBメモリに秘められた真実とは? 芹沢と斉藤は、大山家の圧力に対抗し、紗英の想いを公にできるのか――。
次回、「沈黙の終わり」――正義と悪の攻防がついに激化する。
読者へのメッセージ
最後までお読みいただきありがとうございます!
紗英の痕跡がついに見つかり、事件は大きな転換点を迎えました。次回は、大山家との対峙がさらに緊迫感を増し、芹沢の真価が試されます。次回もぜひお楽しみに! コメントや感想をお寄せいただけると励みになります。
次の更新予定
【毎日更新】心理学者探偵・芹沢孝次郎が人間の心の奥底に潜む真実に挑む!芹沢孝次郎シリーズ 第2弾 湊 マチ @minatomachi
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