第9話 沈黙の闇
廃校舎の裏口を駆け抜ける芹沢孝次郎は、封筒を胸ポケットに押し込みながら周囲を警戒していた。背後では銃声と怒号が交錯し、斉藤たちが黒服の男たちと激しい応戦を繰り広げている。
「時間を稼いでくれるのは分かっている……だが、この証拠を失うわけにはいかない。」
芹沢は冷静に呼吸を整えながら、校舎の外れにある細い通路へと進んだ。彼の足音は極力抑えられている。だが、すぐにその静寂を破る新たな足音が近づいてきた。
背後を振り返ると、黒い服を着た男が一人、静かに芹沢を追い詰めてくる。彼は無言のまま、冷徹な目で芹沢を睨んでいた。
「逃げられると思うな。」
その声に、芹沢は薄く笑みを浮かべた。
「逃げるつもりはありませんよ。ただ、あなた方の手にこの証拠を渡すつもりもない。」
男は一瞬の隙も見せず、芹沢に近づいてきた。鋭いナイフが彼の手に光っているのが見える。
「計画書を渡せ。」
芹沢は静かに後退しながら、男の目を見据えた。
「あなた方が恐れているのは、この計画書そのものではない。紗英さんが残した『真実』が世間に明らかになることだ。そして、それがあなたたち自身を崩壊させるきっかけになることをね。」
「黙れ!」
男が怒声を上げてナイフを振りかざしたその瞬間、芹沢は冷静に身をかわした。さらに後方から一台の車が急停車し、そのヘッドライトが男を照らした。
「芹沢さん、乗れ!」
車の運転席から顔を出したのは若手刑事だった。彼は芹沢を急かすように叫ぶ。芹沢は即座に車に飛び乗り、車は黒服の男を置き去りにして猛スピードで現場を離れた。
車内で息を整えながら、芹沢は若手刑事に礼を言った。
「助かりました。斉藤警部補は?」
「正面で応戦中です。増援を呼んでいますが、敵の数が多すぎて……」
芹沢は窓の外を見つめ、冷静な声で答えた。
「彼ならきっと持ちこたえられるでしょう。だが、この計画書を安全な場所に届ける方が急務です。」
刑事は頷き、車をさらに加速させた。
一方、校舎内では斉藤と数人の捜査員が黒服の男たちと激しい銃撃戦を繰り広げていた。敵は明らかに訓練を受けており、的確な動きで攻撃を仕掛けてくる。
「時間を稼ぐだけでいい。奴らが芹沢さんを追えないようにしろ!」
斉藤が指示を飛ばす中、次第に敵の勢いが弱まっていく。警察車両のサイレンが響き渡り、黒服の男たちは次々と撤退を始めた。
「奴ら、計画書が奪えないと分かって逃げるつもりか……」
斉藤は銃を構えたまま、最後の一人が視界から消えるまで目を離さなかった。
現場が落ち着きを取り戻した後、斉藤も本部へと戻った。そこにはすでに芹沢が到着しており、計画書とともにUSBメモリの内容を確認していた。
「このUSBには何が入っている?」
斉藤が問うと、芹沢はスクリーンに映し出されたデータを指差した。
「土地の買収計画の詳細だけではなく、取引に関与した全ての名前が記録されています。政治家、企業、そして……」
画面に映し出された名前の中には、「大山重信」の文字が鮮明に刻まれていた。
「これが紗英さんが残した最後の真実です。」
斉藤はその名前を見つめ、拳を握りしめた。
「ついに奴らを追い詰める証拠を掴んだ。だが、これで奴らが黙っているとは思えない。」
芹沢は静かに頷きながら言った。
「ええ。これからが本当の戦いです。」
次回予告
紗英が残した真実が明らかになる一方で、大山家の反撃が始まる。捜査はさらに困難を極め、事件の核心に迫る者たちに危機が迫る――。
次回、「真実と代償」――正義を貫くために、犠牲が求められるときが来る。
読者へのメッセージ
ご愛読いただきありがとうございます!
紗英が託したUSBメモリに記録された真実が、ついに事件の全貌を照らし始めました。しかし、大山家の反撃と新たな危機が迫ります。次回もハラハラする展開をお楽しみに! コメントやご感想をお寄せください。皆さんの声が物語の励みになります。
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